2008.7.6 「『博士の生き方』6年目を迎えて」



「博士の生き方」を大学院在学時に始めてから6年目に入りました。この数年の間で随分と博士課程やポスドクを取り巻く状況も変化してきているように感じます。

博士課程に関しては、卒業要件が明確にされ、それが学生、教員に周知徹底され、かつ遵守されるようになってきたと聞きます。また、カリキュラムに関してもさまざまな試みがなされていると聞いています。ポスドクに関しては、キャリア支援に関する体制も機関にはよりますが、充実してきているように思います。また、大学教員への道のりは相変わらず険しいものではありますが、博士課程の学生やポスドクの企業への就職は随分とさかんになってきた印象を受けています。

企業側の思いとしては、団塊世代の退職によって、とにかく人員の補充が必要であるということがあるとも聞いております。理由はどうあれ、博士課程出身者が多く採用されていくようになった現状というのはそれほど悪いことではないと私は感じております。これもまた、聞いた話ではあるのですが、企業が、博士号取得者を採用する場合に、彼や彼女に対して過剰に期待をすることがなくなったのではないかという話を聞きます。

入社一年目の社員は所詮一年目の社員であり、学部卒だろうが、修士卒だろうが、博士卒だろうが、個人差はあれそれほどつかいものになるものではないということをわかってくれるようになったということのようです。思えば、私も入社1年目から2年目のときに、期待されるのはうれしいのだけれど、危うくつぶれかけたこともあったので(あのときは本当に不安な日々を過ごしました)、その話には思わず首肯したものでした。

博士号取得者が多く企業社会に出るようになったことでよいことだと思えるのは、多分、一緒に働く人たちが、博士号をもっているある個人を「博士」の代表として、その人のふるまいを「博士」の振る舞いとして認識するのではなく、その人の属性として認識するようになることではないかと思います。昔の企業人の中には「博士」の肩書きを名刺からはずす人までいたと聞きますが、今後は「博士号」もその人がもっている属性の一つとして認識されるようになるんじゃないかなと考えております。

博士を取り巻く就労環境は大きく変ってきているのですが、「博士に行くと就職できない」という話はまだまだ強く信じられているようです。そのため、彼らの救済策も含めて他の何かの支援策と抱き合わせにして政策的になんとかならんものかと考えている一群の方々もおられるようです。

最近、友人と話したりして思うことなのですが、やはり人はやりたいこと、もしくは必要だと思うことをやることがいいことだと感じます。また、大学であれば、自分たちが責任をもてるように学生を育てるのがいいことだと思うし、企業であれば自分たちが必要だと考える人材を採用するのがいいことなのだと考えます。そういった個々の人や組織の意志に対して何か強力なゆがみを与えていいものだろうかということは感じてしまいます(もちろんルールを守らないところには制裁を加える必要はあるでしょうけれど)。

「博士に行くと就職できない」ということに関しては、一つは「なんらかの形でアカデミックに残っていたほうが幸せだからそうしている」という場合と「決定を先送りにしてきた結果として時期を逸して、不本意なことになった」という二つの場合があるように思います。前者に関しては、問題にするべきではなく、それはそれで個人の選択として尊重されるべきことだと考えております。ただ、後者の場合については、いくつかの側面で議論の余地はあるのかもしれないと感じております。ただ、議論をした結果はおそらくは、今後、博士課程に来る人たちへの予防策という形をとることになるだろうと思います。私は月並みなことしか言えないのですが、もしも、今自分のおかれている現状が不本意で先の見通しが立たないと感じている人がいたら、まずは自分の出身大学か、もしもどこかでポスドクをされているのであれば所属機関・大学のキャリアサポートを受けてみて、自分の将来に向き合うということを少しずつはじめていってみるということしかないのではないかと感じております。

「博士の生き方」については、今年の3月にキャリア形成に関してアンケートを実施し、422名の方からアンケートに協力していただきました。多くの方に回答をいただけたこと本当に感謝をしております。アンケートの折に、アンケート項目以外に所感等を書いてきてくださった方々もいらっしゃり、その方々にも個々に返信をしたいとは考えているのですが、なかなか返信が滞ってしまいまことに申し訳なく感じております。アンケート結果についても、いくつか整理したいと思ってることもあるのですが、またおいおいやっていきたいと考えております。

今後は、これまでのアンケート結果を踏まえて、大学院を出て、ポスドクなり企業なりに進んだとき後の状況について、また、企業が博士号取得者を雇い入れることの意義についても考えていけたらと考えております。

私自身は、会社ではこの春に昇格しました。これまでは基本的に自分のテーマを遂行していただけだったのですが、この春から管理業務がたくさんわきあがってきました。新しい業務には上司や同僚の方々の協力もあり徐々に慣れてきているのですが、まだ少し時間がかかりそうです。立場が突然変って、つらいと思うこともないわけではないのですが、これも自分の視野を広げるための勉強と思って、日々がんばっております。成長のためのステップを準備してもらい、成長するための支援もしてもらえて、おかしくない振る舞いができるように教育してもらえるというのは企業にいることの利点なのかもしれないとこのごろ考えております。

今年もどうぞよろしくお願いします。




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