2007.9.29 「産学連携から考える『博士』のキャリアパス」



9月25日から広島大学で開催されていた第59回日本生物工学会大会で25日午前におこなわれたシンポジウム「産学連携から考える『博士』のキャリアパス」にパネラーの一人として参加してまいりました。

これまで、いくつかの会合で何度かパネラーなどとして呼んでいただいたことがあります。これまでの経験では、そういうときというのはだいたいシンポジウムの直前に集まり、打ち合わせなしで本番に臨む場合が多く、また、シンポジウムの後の反省会もあまりなく(主催者同士はやっているのだろうと思いますが)、せっかく同じ興味をもっている主催者の方々やパネラーの方々が集まっているのに、ゆっくりとお話をする機会がないことはとても残念だと思っておりました。

今回は、わざわざ前日に打ち合わせのために集まる時間を作ってくださり、シンポジウムの後にも食事会を開いてくださり、主催者の方々やパネラーの方々とゆっくりとお話をする機会が得られました。特に前日の打ち合わせでは、夕方6時から居酒屋ではじまった打ち合わせが盛り上がり、結局日付がかわって午前2時頃まで続いてしまいました。シンポジウムを開くことの目的は、会場に来てくださった方々に何かきっかけを得てもらうことも一つあると思うのですが、それ以外に主宰者やパネラーが知り合うことによって、それをきっかけとしてさらに蓄積を増していくということも一つなのかなと感じました。

シンポジウムは、タイトルが「産学連携から考える〜」ということで、講師として産業界側から一人、大学側から一人、そして、博士やポスドクの状況を外側から見つめてきた立場として新聞記者が一人呼ばれておりました。また、話す予定はなかったそうなのですが、今回のパネルディスカッションの司会役の先生がご自身で感じておられる問題点について大学の現状についてのデータを示しながらお話をされておりました。パネルディスカッションの持っていき方にもよったとは思うのですが、いろいろな方向から議論のできる材料を提供する会だったのではないかと感じました。

シンポジウムははじめ、3人の講師の方からの講演が各20分〜30分程度でなされ、その後、パネリスト4名がそれぞれ自己紹介や持論を話し、パネルディスカッションの司会の先生から所属しておられる大阪大学の現状と、そこから見られるポスドク問題の問題点についての提示がなされました。そして、短い時間だったのですが、パネルディスカッションがおこなわれました。3人の講師の講演のときには会場に60名から70名は参加者がいたと思うのですが、パネルディスカッションの折には30名程度になっておりました。そのため、会場とのコミュニケーションもやりやすくなっており、司会の先生の方から会場にも頻繁に話がふられておりました。

シンポジウムでの講演に関して、少しずつ記すとだいたい次のとおりになります。

新聞記者の方からは、以前読売新聞で「漂う博士」という連載をしていたときにどのような問題意識をもっていたのか、またどのような問題意識が生じてきたのかという点についてお話がありました。次のような問題意識をもっておられるということでした。@どのように伝えたら一般の人たちにも当事者意識をもってもらえるのか?Aポスドク問題において、各大学でいろいろと取組みがなされているが、根本的な対策になっているのか?B次世代育成について出口の確保とあきらめる仕組みは必要なのか?Cこの問題に関して、大学も産業界も、そして博士課程にいる学生やポスドク本人にも当事者意識が低いのではないか?Dポスドクたち自身が現状について怒りをもち、また自信ももつとともに、周囲も声を上げることが必要なのではないか?E大学院生における学生への経済支援の貧弱さは、好きなことをやっているのだから金はいらないだろうという社会の意識から生じていると思われるが、それは結果として大学院生に社会性を与えないということにつながっているのではないか?F企業は大学院での教育に対して文句しか言わないが、もっとお金と知恵を出すべきではないのか?(例えば学生支援機構の奨学金を入社した場合には肩代わりしてくれるとか)そういった話をされておりました。また、新聞記事というと、ポスドク問題に関しては、悲惨な事例を示して成功事例を示さなかったり、政府への批判ばかりで、大学教員への批判やいわゆるポスドクの自己責任論のようなことが言われなかったりすることがあるというコメントが打ち合わせの折に出ていたのですが、それらについて、悲惨な事例を示すことに関しては、どうしようもない状況にはまり込んでいる人は意識的に取り上げないと彼らが社会に取り上げられる機会がないということを述べておられ、大学教員やポスドクを責められないということについては、自分はそれをやる立場にはいない(当事者が自己批判をしたり、自分や自分の周囲を鼓舞することはありかもしれないが・・・)ということを言っておられました。確かにそういう考え方はあるなとおもって聞いておりました。なかなかバランス感覚をもっておられる方だと思いました。

次に大学側の立場ということで、横浜国立大学の先生から講演がありました。その方からはアメリカで行われている「Professional Science Master」という教育プログラムの取組みについての話と、それを基にして作られた横浜国立大学での取り組みについてお話がありました。話によるとこのプログラムは従来の工学系教育に加えて、法律や経済系の科目や経営系の科目も教えることにしたというもので、いくつかの取組みがあるようでした。アメリカでは、何か特定の職業に就くことを目的としたものや、複合的に科目を融合させたものなど形態が何種類かあるという話をなされておりました。このようなプログラムが現れた背景としては、今後のイノベーションがいわゆる融合領域からおこなるのではないかという考えがあるそうで、そういうところから、学際的な教育の充実や産業界での研究マネジメントを意識した教育が現在実験的に財団の助成を受けてなされているということでした。これだけを単独で聞くとそれもありかなと思うのですが、次に書く製薬メーカーの人事の方の話と合わせて考えてもらえるといいのではないかと思います。私自身は社会人教育の一環としてはありかとは思うのですが、学部からストレートで進んできた大学院生に対しての教育としてはどうなのかなと確信はありませんが、思っています。

次の製薬メーカーの研究開発部門の人材開発を行われている方からの講演がありました。その会社では、この3年くらいで新卒入社者に占める博士号取得者の割合が増えているということで、数年前は2割くらいだったのがここ最近は4割くらいになっているということでした。また、中途採用者に関しても、前職が大学(ポスドク、任期付き助手)だった方というのが、全体の3割くらいになっているということを言っておられました。特に新卒で博士号取得者の割合が増えていることにはいくつかの理由があるそうですが、その一因として、修士課程からの採用において希望する人材を採用するのが難しくなっているという認識がこの会社にはあるようです。製薬メーカーにおける就職活動の時期にもしかしたら問題があるのかもしれませんが(もちろん大学での教育のあり方にも問題があると思いますが、9月10月からはじまると聞いております)、実験に関する経験と研究をおこなってきたことによって培われるであろう洞察力を磨いてこなかった人間を採用して後で困るというリスクが高いようです。その点、博士課程修了者は実験についての経験も積んでいるし、深い専門性をもっていることも多いので、よいということであるようです。また、中途採用でポスドクなどの大学・研究機関の経験者を採用することに関しては、専門に関する深い知識やまったく異なる経験が、従来からメーカーにいる研究者にとって刺激になり、それが相乗効果を発揮することを期待しているようでした。ただ、研究を研究で終わらせない意欲であったり、自分の研究を創薬にもっていこうという能力は評価して採用しようとしているということは言っておられました。

上記の大学での取組みと企業での採用について聞いていると、大学や大学院で教える事柄とは何だろうかと考えます。大学や大学院でやらなければいけない教育、もしくは大学や大学院でなければできない教育というものがあるのではないかと感じます。そしてそれらの教育というのは学生の成長段階の適切な時期に与えられなければいけないのではないかとも感じます。そして、企業でできる(やるべき)教育であったり、必要になったときに学べばいいということも多いのではないかと思います。その考え方が適切でないと、「おませ」なだけの大学生や大学院生を送り出すことになったり、企業内で人材をつぶすことにもつながるのではないかと考えております。

その後、休憩がはさまり、パネルディスカッションに入りました。私もパネラーとして自己紹介をし、応用物理学会でしゃべった内容について簡潔にまとめてみましたが、今回はメインではないので、大人しめに振舞ったように思います。

パネルディスカッションに入る前に、産学連携という視点から大学の産学連携の取組みについてとポスドクの置かれている状況について、司会の先生から話がありました。それによると、ポスドクに関しては、ポスドクがあまりに増えすぎたために、大学の人事サイクルの中では吸収できなくなってきており、その上、助手層まで任期つきになり不安定層になってしまったということを言われておりました。また、産学連携における大学の現状については、受託研究、共同研究ともに件数が増加してきているが、受託研究に関しては、JSTなどからのプロジェクト研究に関するものがほとんどであり、イノベーション関連の予算に関しても社会に還元していく仕組みがないため予算を単に消化するにとどまってしまっている。そのため、それに関ったポスドクも結局大学外に出ることなく、学内に留まってしまっている。また、共同研究に関しても、件数・総額自体は大幅に増えてきているが、一件あたりの共同研究費は年間数百万円程度の場合がほとんどで、人が雇える程度(年間1000万円〜)、かつ複数人数をやとってチームで研究ができるほどの予算(年間5000万円〜)を入れる共同研究というのはほとんどなされていない。それで、大学と社会がうまくつながる仕組みを現在作っていっているということを話をしておりました。

パネルディスカッションでは、司会から、まず博士に関しての現状認識についてどう思っているかという問いがなされました。なるほどなと思ったのは、主催者の先生から出された「学科のもっているアイデンティティーを教えられているのか」ということと、パネラーの新聞記者が言っていたことで、「今は修士課程卒業時が一番値が高く、博士課程に行くと値段が下がってしまう。まるで中古マンションのようだ。企業は博士に恩を着せて安く人材を確保できている」ということでしょうか。

また、企業の方に対して、大学院においてビジネスの常識のようなことを教えるべきなのかという問いがなされましたが、製薬メーカーのパネラーの方からは採用時点ではビジネススキルは重視していないということを言われておりました。また、博士号取得者の能力はどの程度必要かという問いに対して、キャリアに対する認識の話が出たのですが、その中で米国でポスドクをされている方からの発言で、「米国のポスドクはキャリアについてよく考えているといわれているが、キャリアについての認識は日本の一般的なポスドクとそれほど変らないのではないか。彼らはだいたい理由を考えるのがうまいから後でもっともな理由を考えているのではないか。向こうのポスドクの場合、だいたいキャリアについて、@今の地域に住み続けたい、Aアカデミックに残りたい、B企業に行きたいという3タイプくらいあるようだ」ということを言っておられました。

今後も政府からイノベーション関連予算がついていくと考えられるが、その予算がうまく使われ、社会に還元されるためにも、どのようなシステムを構築されていくのか考えていかないといけないだろうということが司会の先生から述べられて締められました。

私自身は、なかなか今回の会はいろいろと考えさせられる会だと思いました。今回の視点は結果を見るとなかなかよかったのではないかと思っているのですが、今後、主催者の方々が、より何かの問題にフォーカスされていかれるのかそれともより広げていかれるのかとても楽しみです。




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