2005.11.5 「ポストポスドク問題が解決か?」



2005年8月7日の雑感で取り上げた、ポスドクの就職支援をおこなう団体に文科省がお金を出すという案件が通って、来年度に実際にモデル事業を募集して合計で5億6000万円の支援をおこなうそうです。毎日新聞で読みました。

個人的にやや懸念していることがありますので、そのことについて今日は書こうかと思います。どのような懸念かというと、その昔、企業が不良債権を別会社に移して、自分の会社を財務的に綺麗に見せたように、大学や研究機関が抱えているポスドクを別の機関に移すことで、あたかもポストポスドク問題が解決したように見せることに、結果としてなってしまうのではないかという懸念です。

今回のモデル事業については、毎日新聞の記事を読むと、人材派遣会社などの人材サービスを提供する会社を想定しているようです。恐らく、今回のモデル事業に応じるところとしては、人材派遣会社、人材紹介会社、再就職支援会社辺りになるのではないかと思います。直接的な就職支援ではなく、モチベーションをあげるなど、教育面も重視するのであれば、教育関係の会社や学校法人も入るのかもしれません。

7月29日の科学新聞を読むと、モデル事業に対しては5年を目処に支援を終えて、支援終了後は各組織が自立してやっていけることが条件になっており、この辺がどのようなモデル事業が最終的に残るかのキーになるのではないかと思います。つまり国から支援として受け取ったお金の分、ポスドクに対してなんらかのサービスを余計に提供するわけで、そのお金を国の支援が終わった後でいったい誰が負担することになるのだろうかというあたりを考えると、今回のモデル事業で残れるモデルは基本的に一つしかないのではないかと考えております。

まず、教育サービスに関してですが、なんらかの講座や講習会、通信教育などをおこなうことが考えられると思います。これらは、値段にもよるでしょうが、大学側が学生へのサービスの一環として、いくばくかの支出をおこなっていくこともあるのではないかと思います。ただ、講座や通信教育がどれだけ就職に対する考え方について影響を与えていくのかはわかりませんし、塾が大学へ売り込んでいる補習講座もなかなか苦戦を強いられているようなので、どの程度企業が参入するにあたってうまみがあるのかは定かではありません。

次に人材サービスについては、人材派遣会社、人材紹介会社、再就職支援会社が挙げられます。はじめに再就職支援会社のモデルに関して簡単に説明します。再就職支援会社というのは、ある会社が社員をリストラした場合に、リストラされた社員の再就職を支援するのに対して結構高額な手数料(数十万円)をリストラをした会社から受け取り、その中から就職までにかかったもろもろの費用を差し引いたものを儲けとする会社です。

国の支援が終わったあとに、ポスドクの就職支援にかかった費用を誰かが負担するのかということになりますが、大学や研究機関かもしくはポスドク本人が負担をするということになるのではないかと思います。いずれの場合もそれなりに高額となるであろう手数料を自分のためやポスドクのために払おうとは思わないのではないかと考えられます。

人材紹介会社というのは、求職者と求人企業をマッチングするのを目的としており、マッチングがうまくいった場合には、求人企業から手数料をもらうという会社です。手数料としては、だいたい求職者の年収の30%くらいが相場のようです(もちろん求職者の給料から天引きされることはないです)。博士号やポスドクの経験に対してよっぽどのプレミアがついていれば、かなり高額の給料を求人企業に要求することができて、ポスドクたちに対してなんらかの特別なサービスをおこなうだけのモチベーションにもなるかと思うのですが、学位そのものにはそこまでの価値はないでしょう。

最後に、人材派遣会社です。派遣社員の雇用の仕方には二種類の形態があるのですが、メジャーな方を例にして話を進めていきたいと思います。派遣会社というのは、どこかの会社で人手がほしいというときに、自分の会社で人を雇って、人手がほしいと言っている会社にその雇った人を派遣して働いてもらうという形態の会社です。派遣されている間だけ雇用契約を結ぶ「一般派遣」という形態をとっているところが多いです。

研究機関や企業の開発現場への派遣というのはこのごろ増えており、大学院卒やポスドクの方々が、人材派遣会社に入ってきてくれるということは、より高度な仕事への派遣(より高い時給を請求できる仕事)にも対応できるようになることもあり、せいぜい大学卒や専門学校卒を派遣することしかできない会社との差別化が図れるという点でも参入するメリットがあるのではないかと考えられます。また、より高い時給を派遣先の企業からとれるということになれば、何かプラスアルファーで博士たちに教育を与えようというモチベーションにもつながるかと思います。国の支援が終わったあとでも、ある程度の数の博士を抱えておくことができれば引き続き博士の支援事業を継続することができるでしょう。

このように私自身は、国の支援が終わった後は、元・ポスドクたちが働くことによってその埋め合わせをするという人材派遣の方法でしか、今回の支援は形として残らないのではないかと考えております。

派遣社員として働くことが悪いことだとは思いませんし、それなりに専門を生かしていくということもできるかと思います。しかし、派遣社員である以上は、組織の中で中心的な役割を担っていくということはできないと思います。ポスドクになった方々にはなんとなくなってしまったという人もいるかもしれませんが、おぼろげにでも、やはり助手→助教授→教授と階段を上っていって、より大きな仕事ができるようになりたいし、世間からもそれなりに評価されて尊敬を集めたいという気持ちをもっているのではないかと思います。そのような方々が、「夢」をあきらめる代償として、派遣社員という立場に満足できるのだろうかとは考えてしまいます。

また、現実的な問題として、派遣社員になった場合、即戦力ということが売りになる以上、新しい業務についたり仕事を通してまったく新しいことを身に着けるとといった自分の幅を広げることが難しくなるのではないかと思います。それと基本的に誰かを使って何かをおこなうというマネジメントを学ぶ機会というのは得られないのではないかと思いますので、派遣社員として勤務する年数が増えて、年齢が増していくほど、正社員として登用される機会というのはなくなっていくと思います。

これまで大学や研究機関で滞留していたポスドクが、今度は派遣会社で滞留してしまうということにならなければいいけれどと切に思います。

研究人材の流動化ということが言われていますが、そのいきついた先が派遣社員として流動化するということであったのならばとても悲しいです。

私自身も、今回の件に関しては自分なりに対案を示そうとは思っていますが、それはまたおいおい示していきたいと思っています。




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