2005.8.7 「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」



少し前に、聞いたことがあった話ではあったのですが、科学新聞の今週の一面(7月29日up)のところに、「ポスドク活用へ対策〜研究機関など支援・競争的資金制度創製へ・文科省 来年度概算要求に盛る〜」という記事が出ておりました。

内容としては、科学技術・学術審議会の人材委員会がまとめた「多様化する若手研究人材のキャリアパスについて(検討の整理)」を受けたものだそうで、将来に不安を抱えているポスドクたちのために、キャリア形成のためのサポートをする組織(大学や研究機関、NPOなどなど)を対象として、一件あたり年間数千万円程度の支援をしようというものだそうです。ちなみに、対象となるのは500人以上のポスドクを支援できるということが条件だそうです。そして、サポートの形態としては、例えば産業界とポスドクとの交流の場の設定であったり、キャリアパスのための講習会や研修の開催といったものが想定されているようです。

私自身が、「博士のための職業紹介」と称して、就職支援に取り組んでいて言うのもどうかと思うのですが、お金を出すことで解決できる問題なのかなというが私の正直な感想です。

理由を挙げると、一つ目としては、35歳未満くらいのいわゆる若手研究者の方々というのは、概して普通に中途採用市場に出ても充分な競争力を持っていると私自身は考えていることです。したがって、国の方で、特に助成金等つけなくても、通常の中途採用のルートで対応が可能と考えますし、ポスドクを対象として人材紹介等の業務を行う場合も、紹介会社としては充分にペイするのではないかと考えております。

二つ目としては、講習会や研修などを開催する場合、現状ではまずい、なんとか打開策を見つけないといけないと考えている人にとっては、とても意味のあるものとなるのですが、どちらかといえば伝統的なルートを歩みたいと考えている方々にとっては、講習会などに強制的に参加させても彼等の心には響かないでしょうし、強制的に参加させないのであれば、参加もしないのではないかと思われるということです。牛を水場まで連れてくることはできるが、牛が水を飲むかどうかは牛次第というたとえのとおりです。講習会を開催することで、自分自身の可能性を見つめなおしたい考えていると方々をより強化すると言う点で役に立つと思うのですが、今回の助成の趣旨はおそらくは、産業界などのほかのキャリアにはは見向きもしないけれど自分が将来大学に常勤ポストを得られるかどうか不安という方々を大学や研究機関の外へ出すということを目的としていると思うのですが、そういった方々への波及効果というのがどの程度あるのか疑問です。

なんとか将来に希望を見出したいと考えている方々は、いろいろとネットで検索をかけたり、友人知人関係に話を聞きにいったりと、結構激しく動かれているのではなかろうかと思うのです。ポスドクに関しての講習会や研修があったほうがよいとは思いますが、別途、国が助成金を出すというよりは、大学や研究機関が組織的に通常の予算の範囲内で取り組むべき問題ではないかと考えます。

三つ目としては、大学院生やポスドクが大学や研究機関で生涯研究者を続けるということが一種の文化として染み付いている面があるということです。自分の指導教官やその他の教官たちが、博士は大学に残るのが当然と考えている風潮があったり、周囲も大学に残りたいと思っている風潮があったりというのはよく聞く話です。そういった水になじめない人は、さっさと大学から去っていきますが(私のように)、そういった水をおいしいと思う人たち、そういった水しか自分はもう飲めないと思っている人たち(おなかは膨れないけれど)もたくさん存在しているわけです。二つ目の理由とかぶってしまいますが、そういった方々に対して、今回の助成というのがどの程度意味があるのだろうかと考えてしまいます。

私としては、大学院生やポスドクが、自分自身で自らの現状について、将来について建設的に考えていく風土を作っていくことが必要なのではないかと考えています。例えば、大学に関してはおかしな話がいっぱいあって、科研費などの研究費からアルバイトの名目で人件費ではなくて、雑費という扱いで年間200万円程度の賃金で雇われているようなポスドクの方々も大勢います。私の会社の高卒新入社員でもこの1.5倍は給料をもらっています。こういった状況を甘受してしまうのか、おかしいと思って、なんらかの行動に移すことができるのか、個々人の性格も大いに影響することとは思うのですが、周囲の環境というのも大事なのではないかと考えています。

こういった風土を構築していくのは投入する金額の多寡ではなく、おそらくは10年単位の地道な取り組み、それも当事者である大学院生やポスドクたちからの主体的な行動による取り組みが重要であろうと思っています。

私自身も、協賛企業の方や講師を引き受けてくださった方の支援を受けて「第一回博士の生き方座談会」なる催しをおこないました。この活動をこれからどのように大学院生の方やポスドクの方が主体的に自分のキャリア形成を考えていく風土作りに結び付けていくのか考えていかないといけないと考えております。

ちなみに今回の雑感のタイトル「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」というのはリクルートの社訓だそうです。国がポスドクの将来を案じてくれるのはありがたいことではありますが、結局、今回のタイトルにつかった言葉につきるのではないかと考えております。




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