2005.1.10 「2004年11月27日のシンポジウム報告」



ずっと前になるのですが、2004年11月27日に開催された「科学技術人材のキャリアパス〜キャリアパスの多様化と大学・研究機関における労務問題〜」にて発表をしてきました(プログラムは11月12日の雑感をご覧ください)。その後、引越等、いろいろとあり、感想をまとめるのが遅くなってしまいました。印象に残っていることをかいつまんで報告させていただけたらと思います。

シンポジウムの参加者は、ほとんどが大学関係者、政府系研究機関、官公庁関係の人で占められており、あまり民間企業の方というのはいらっしゃらなかったように思います。人数としてはざっと70人から80人くらいは我々の講演を聞きにきていたかもしれません。「博士の生き方」上で開催の告知をさせていただいていたので、あるいは何人かこのホームページをご覧の方もいらしていたかもしれませんが、ホームページの告知を見て来たという方で、私が当日お会いできたのは1人だけでした。

午前中は、若手研究者が自分自身の取り組みについて講演をするというものであり、午後からは、独立行政法人の研究機関や大学において人事問題にそれなりに責任をもつ立場の方々が自身の研究所の人事問題や研究者の労務問題全般について講演をするというものでした。聴衆は、テーブルに5,6人ずつ分かれて座らされ、午前、午後の講演が終わったあとにそれぞれのテーブルにて、講演を聴いて思ったことを話し合い、その後、テーブルごとに意見を発表するという形で会が進行していきました。

午前中の講演に関しては、印象に残っているのは、東京海洋大学において産学連携コーディネータという仕事をされている河口さんご自身の仕事に関しての体験談くらいでしょうか。産学連携コーディネータというのは、企業と大学が共同研究などをおこなうにあたってのもろもろの仲介をするという仕事らしいです。河口さんという方は、大学の修士課程を出たあと、医療機器メーカに就職して、そこで、係った製品の動的評価をするという立場で共同開発先の大学・医療機関と社内の製品設計者との間での仲介者としての役割を果たしたとのことで、そのような経験が現在、おこなっている産学連携コーディネータとしての仕事で役に立っているという話であった。そして、現在は、そのような仕事をおこないながら社会人大学院生として、コーディネータの仕事を体系化・普遍化するための研究もおこなっているということであった。河口さんの場合は、この仕事をNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)NEDO産業技術フェローシップ事業という制度を利用して、現在の仕事をされているようです。この事業に興味のある方は一度ホームページをご覧になってみるのもよいかもしれません。このように意欲的に新しい領域に挑戦されていることはすばらしいことであると思って聞いておりました。

午前の話よりはどちらかというと、午後の話の方に大いに関心をもったのですが、その中でも特に、古屋さんという理化学研究所の人事関係の方の理化学研究所の研究者雇用の歴史についてのお話と、物質・材料研究機構の丹所さんの研究者の労務問題についての話が特に興味深かったように思います。

理化学研究所は大正9年創設の財団法人理化学研究所が前身となっており、その後、いくつかの変遷はあったのですが、定年制の研究員による組織を維持してきたそうです。平成16年度においては予算が840億円、総人員2800人を数える大組織に成長しています。そして、その人員のうち任期つきの研究者・職員の割合は8割に達するそうです。

理化学研究所において、任期付き研究員雇用のさきがけになったのが、昭和61年のフロンティア研究システムというものの創設によるプロジェクト研究の推進をはじめたころとのことです。

理化学研究所に任期付き研究員で入所された私の出身研究室の先輩が任期が切れたあと消息不明になっていることもあり、任期付きになることに私自身は正直なところ、猛烈に抵抗があるのですが、理化学研究所内の研究者も将来に不安を感じているとのことで、任期後のポジションのこと、1年契約という短期契約のための契約更新の不安、短期で成果を出すための研究環境が不十分、年金に関しての不利、雇用についての相談先の皆無といったことに不安・不安をもっているとのことで、そういったことになんらかも対処をしていこうとも考えているようです。

また、定年制研究者に関しては一応定年まで勤めあがることはできるのですが、在任期間はそれほど長くはなく、研究室を主宰している主任研究員で平均13年、研究室に所属している定年制の研究員で平均10年とのことです。そのため、やはり退職金で不利になるとのことで、年俸制を導入して、退職金相当分も加算してしまおうということも考えているそうです。

理化学研究所は、大勢の優秀な人材を集めてはおりますが、それを社会に還元することは少なく、多くを使い捨てにしているというのが現状ではないかと思います。人材育成機能を強化していくとのことでしたが、ぜひよい方策を考えていただきたいと思います。

物質・材料研究機構の丹所さんは「ポスドク『雇用』の明らかのなった諸問題〜公務員法・労働法との整合性〜」と題して講演をされておりましたが、そういった方面からこの問題を考えることがなかったので、聞いていてとても新鮮でした。

ポスドクと一括りにしてしまいますが、雇用形態・雇用される組織によって、法律上の扱いかが変わり、それに伴って社会保険・時間外手当のことなどで問題が発生するということもあるそうです。まず雇用されているか雇用されていないかで、@学振ポスドクとAそれ以外のポスドクに分かれます。学振ポスドクの場合は、雇用されているわけではないので収入は給与ではないそうです。また、社会保険は自分で国民年金なり国民健康保険なりに入らないといけないとか、労災・公務員災害の非適応、雇用保険がないなどの社会保障制度の外におかれてしまうということになっているようです。

学振以外のポスドクに関しては、B任期付き公務員、C非常勤公務員、D労働基準法に基づく有期契約職員といったものが存在しているそうです。Bの任期付き公務員は大学や研究機関の定員内に入っていますが、非常勤公務員の場合は、定員外の扱いになります。非常勤公務員は一種のパートタイムで、週30時間の時間制雇用で一日8時間以内の日雇いということになっています。そして、独立行政法人の研究所が誕生してから問題になっているのが、Dの労働基準法に基づく有期契約職員とのことでした。雇用契約の更新、雇い止めに関してのトラブル(更新の有無の明示義務、更新基準の明示義務、雇い止め理由要求の場合の理由明示義務、更新の際の契約期間を長くするように努力する義務など)、時間外手当に関してのトラブル(残業代を研究所の資産を売却してでも払わなければならない場合もある)で裁判に発展していることもあるそうです。

また、現在の研究環境を取り巻く情勢としては、独立行政法人化したり国立大学法人化したりと、旧国立研究所、国立大学が労働基準法を遵守しなければならない状況になっています。そのため、それに伴う負担増(労災保険料、雇用保険の負担、労働関連法規遵守のためのコストなどなど)による、研究費の削減、もしくは研究者の削減がおこなわれるのではないかということが一点。またもう一つは、平成18年より高年齢者等雇用安定化法の適応により、正職員に関しては、段階的に65歳まで雇用が延長されるそうですが、これも独立行政法人や国立大学法人に適応されることになりますので、それによって、ポスドクの雇い止めや新規採用が減るかもしれないということでした。

任期付き雇用に関しては、現在、拡大している派遣社員や業務請負と同様に法律上の整備が遅れており(現在の社会保険などの制度は長期間同じ場所で勤務することを前提に作られておりますし)、新しい働き方をしている人たちにとっては割を食うということになっているように感じます。また、国立研究所から独立行政法人への変更などがありましたが、人事関係の法体系まで手がまわらなかったのか、現在のところ対処ができていないということもあるようです。

あくまでもうわさで真偽のほどは知らないのですが、このように任期付き研究員を増やしたのは、政府が今後日本社会で労働力の流動化を進めるにあたっての一種の社会実験をおこなっているのだとも言われております。すでに、日本社会においては労働力の流動化は、人材派遣や転職の一般化などにより好むと好まざるとにかかわらず、社会に浸透しつつあるように思います。各個々人、企業や研究機関などの各組織がそれぞれ自分にあった働き方、人事体系を作っていく必要があると思います。

日本社会は元々農耕社会であったため、「働く場所=運命共同体=家」(村人が一緒になって田を耕したりするので)という意識があると言われていました。人材の流動化というのは言ってしまえば、人々が「帰る場所」を失ってしまうということにもつながってしまうのではないかと思います。実際、派遣社員の場合は、短いサイクルで職場を移ることになるので、仕事場において深い人間関係を築くことは難しく、孤立しやすいそうです。もしも、日本において人材の流動化を進めるのであれば、「働く場」に変わる共同体(地域社会なのか、ボランティア活動か、趣味のサークルか、ネット社会なのか、それとももっと新しい何かなのか)が必要なのではないかと思います。働く場所に変わる何か長期的で安心できる人間関係の築ける場所が得られなければ、人々を悪戯に疲弊させるだけのように感じます。

どうもまとまらない文章になってしまいましたが、シンポジウムの報告をまとめてみました。




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