2004.7.6 「アメリカ企業における研究者の採用」



すっかりご無沙汰しております。先月、工場実習が終わり、今月から首都圏の研究所に配属されております。これまで、大学・大学院、工場実習と関西圏に住んでいてので、初めての首都圏での暮らしになります。私が初めての町に来て最初にやることの一つに図書館の場所を確認しておくということがあるのですが、先週末に、図書館に行ったときに、化学同人から出ている「化学」という雑誌の最新号(2004年7月号)に面白い記事が出ていて、思わず見入ってしまいました。

その記事のタイトルは、「第一回・アメリカ企業が求める研究者とは?!」で、安田修祥(やすだ のぶよし)さんというアメリカの大手製薬会社で研究員をされている方からの寄稿です。

この記事の目的は、日本とアメリカにおける研究者の採用プロセスの違いを見てみて、そこから、日本人が海外の企業で研究員として採用されるためには何が必要なのか示すということのようで、つづく第二回では、第一回の話を土台にして、国際的に通用する日本人化学者をどのように育てればよいのかを述べるということのようです。

この記事で筆者が取り上げているのは、新卒博士・ポスドクを対象とした研究者の採用です。筆者の勤めている会社においては、採用の流れは大きく4段階に分かれているそうです。

  1. カレッジインタビューの実施
  2. カレッジインタビューでの面接官の評価、教官たちからの評価、推薦状による選別
  3. 配属予定地での面接・講演会
  4. 面接・講演会での評価を受けて合否判定

カレッジインタビューとは、企業の方で、大学に求人案内を貼ってもらい、それに応じてきた人に対して、その企業の研究者が出向いて、求職者と1対1で面談をして、研究成果の発表と討論をしたり、求職者の教官たちに会っての求職者に関しての評価を聞きだしたりすることだそうです。その後、カレッジインタビューでの評価と推薦状を元に選別をして、採用候補に残った人は、実際に研究所に出向いて、自分の研究成果について、面接に関係している人も含めて研究所の人たちに講演をします。その後は、1対1で、7人から8人ぐらいの研究者との面接で講演会についてや候補者自身についてなどを話さなければならないそうです。そして講演や面接を通して、能力経験は十分か、仲間として受け入れられるかなどをレポートにまとめて、研究所長と採用委員会で採用するかどうかの判定を下すとのことです。

一人採用するためにすさまじい手間をかけているのに、驚かされますが、私が、関心をもったのは、 筆者が「推薦状」の重要性を訴えてらしたことです。

筆者の会社では、カレッジインタビューが終わった後で、配属予定地での講演・面接を行う前に、3通以上の推薦状の提出を求めているとのことです。アメリカの大学教授は、自身の信用にかかわる問題なので、推薦状の作成に命をかけているとのことで、数ページにわたって、候補者の研究能力、研究への貢献度、人柄、研究においてどのような問題があり、それをどのように解決したのかといったことに至るまで細かく書いてくるそうです。そして、筆者は、本当に優秀な博士やポスドクは、最終的には、その分野で高く評価されているようなごく限られた研究室にたどり着くと述べており、著名な大学教授にいい推薦状を書いてもらうことが研究者生活の生死を決すると続けます。

誰に推薦をしてもらえるかによって、その後の人生が決まってしまう、少なくてもよりよい人生を切り拓く機会を失ってしまうかもしれないと言うと、なんとなく不公平な印象を受けてしまいます。しかし、このようなシステムがうまく機能しているのは、一つには著者も述べているのですが、指導教官が自らの信用をかけて推薦状を書くことにあることが挙げられると思います。

また、もう一つとして、学生の気質が日本人の多くのドクターとは随分と異なるのかもしれないなということです。私も含めて、多くの方は、おそらく、研究が好きだからとか、なんとなくモラトリアムが欲しくってという理由で博士課程に行くと思うのです。これは、多分、国によってあまり変わりがないのではないかと思うのですが、一つ異なると思うのは、博士課程修了後のことを考えているかどうかということなのではないかと思うのです。

筆者は、文中でアメリカの優秀な研究者に関して、「本当に優秀な研究者はどんな田舎の大学から出てきても、最終的にはきわめて限られた研究室に博士かポスドクでたどり着く」と述べています。おそらくこれはなんとなくたどり着いているのではなくて、学生個々人が、そのような方向を志向していた結果として、そうなったということなのではないだろうかと思うのです。そして、自らの目標(よい企業に就職するとか、大学に職を得るとか)を達成するために、何をやればよいのかをそれぞれに考えているのではないかと思うのです。

日本の博士の企業就職においても、研究室単位で推薦を求めたりしていますし、大学や公的な研究機関に職を得るためにも、応募の際に推薦状が必要であったり、応募者のことについて聞くことができる推薦者の氏名を挙げることを求められたりしています。日本における企業・大学への採用の仕組みも、筆者の企業ほど、システム化されていないにしても、筆者の会社と同じような傾向があるのかなという感じがします。

職を得ることに限らず、長い人生の間で、誰と知り合い、誰から信用されるかということは実り多い人生を歩む上でとても大事なことではないかと思います。そして、このような人との縁というのは日々の生活であったり研究の中である程度意識的に求めていかないといけないのだろうと思うのです。例えば、学会、研究会などで積極的に発表するとか、積極的に質問するといったことも一つだろうと思いますし、研究以外にも幅を広げたいと思ったら、もろもろのサークル活動にも積極的に参加するというのも一つの方法だと思います。自分がどのような方向を志向しているのかを見極めて、その方向に向かっていけるように、人間関係を築いていくというのもよいし、思いがけない出会いで予想外のところに行ってしまうというのも面白いかなとも思います。よい出会いを見つけましょう。



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