2003.11.7 「毎日新聞2003年11月6日朝刊・『理系白書』ワイド」



昨年度からつい最近まで、毎日新聞に毎週連載されていて、毎回読むのを楽しみにしていたのですが、連載を終わってしまい、少し残念に思っていました。どうもこれからは随時特集のような形で続けてもらえるようで、今後どのような記事を載せていってくれるのかとても楽しみです。

今回、この記事を紹介するのは、なかなか興味深い内容だったからです。「殻を破った博士たち〜研究室を飛び出して〜」というテーマで、研究者以外の職を選択された方々へ取材記事を載せています。内容としては、二人の博士の方をメインに据え、補完資料として文部科学省のデータより、博士課程の就職難が深刻であることを示し、研究者以外の選択肢も模索してもらわなければという内容になっています。そして、博士が異分野に進出しにくい現状があるのではということと、博士自身にも専門性に固執するところがあるのではないかということを指摘されています。

記事で紹介されている方は合わせて4人です。簡単に紹介すると、一人は、大学院で化学を専攻して繊維会社に研究員として勤めたあと、高等学校の教員として第二のスタートをきったという方です。その方は、教える技術はさておき、研究生活の経験から伝えられるものがあると思うと述べてみえます。教師になったきっかけは、研究者としての限界を感じたときに、大学4年生のときにやった教育実習での楽しさを思い出してとのことだそうです。知識に加えて何かを与えられる教師というのはなかなかいないと思います。このような先生が増えるといいのですが、詳しくは記事を読んでください。

もう一人は、小さな会社で種苗の開発に関っている農学博士の方です。博士課程修了後に公務員になったそうですが、性にあわなかったそうです。そこの社長さんからは「課題設定や研究の組み立て方は博士ならではの鋭さがある。」となかなか高い評価をされているようです。そして現在の仕事にはとても満足されており、「誰かの役に立つものが生み出せればうれしい」と語ってられます。

上記二人がメインなのですが、少し小さい扱いで、NHKのディレクターになって科学番組の制作などをなさっている理学博士の方や、ポスドクを2回やって、特許出願代行会社に就職された方が紹介されています。いずれの方も現在の仕事には満足なさっているようです。

で、この特集では、総まとめのような形で、日立の研究開発本部長の話として、博士の人材育成戦略がかけているとの指摘を載せています。彼の話によると、ハイレベルな研究者とは、「役に立つ研究をする」か「新しい知を見つける」の二つのうちのどちらかができる人間だとのことです。前者の例としてエジソンを例にあげて、後者の例として、原子物理に貢献したボーアをあげています。そして、日本の博士に対しては、社会的に評価できる仕事をしていない人が多いのではと苦言?を呈しています。なかなか耳に痛い話でした。

博士の就職難について、このように精力的に取り組んでもらえるのはとてもありがたいことだと思います。自然科学系の卒業者のうち、卒業時点で進路未定のものが3割もいると述べられていますが、その割合というものは、大卒の進路未定者の割合よりも低いですし、進路未定者の絶対数としては圧倒的に少ない人数になります。大卒の進路未定者の場合は、高卒フリーターや失業者と「若者」というカテゴリーで一括りにされてしまい、若年失業者の問題とかフリーターの問題として扱われてしまう上に目をつぶっておれるものならないことにしてしまいたいという感じで取り扱われていますが、「博士」というのは人数ではそれほど多くないのにもかかわらず、一つの独立したカテゴリーとして扱われている上に、いかにして博士を活かしていこうかという前向きな意思を感じます。期待をかけてもらえるのはありがたいことです。

私も博士が大学から出て行くのはよいことだと考えています。それは、大学でポストが見つからないからという消極的な理由だけでなく、研究を通じて考える訓練をそれなりにつんできた人間が広く社会のさまざまな場所に居場所を見つけることが、社会全体のレベルをあげるのに役に立つと考えるからです。たとえば、今回の特集で取り上げられている高校の先生になった方や、NHKのディレクターになった方の場合はより直接的な影響力をもつことができるのではないでしょうか。また、博士が役に立たないから企業が採用しないという話はよく聞きますが、それについても社会が博士のことをよく知らないからという理由があると思います。卵が先か鶏が先かという話になってしまいますが、大学から飛び出した博士たちが役に立つところを見せていったら、世間の評価も変わってくるのではないでしょうか?博士の数は政策のちょっとした変更で簡単に増えましたが、そのような変化を社会が受け止められるようになるためには、政策をどういじっても、根本的な解決にはならず、博士になってしまった人たちの個々人の地道で長い努力が必要であると考えます。

今回の特集を読まれた方には、ぜひ、視野を広くもってほしいと思います。自分にはさまざまな選択肢があり、どのような生き方でも、それが自分で考え抜いた末の結論であれば、それなりに満足できるものであると考えてほしいです。



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