2003.7.21  「INBREEDING」



「INBREEDING」というのは、犬や猫、家畜などの「近親交配」のことを指していますが、転じて大学の教官陣に自校出身者を入れること、大学から大学院への進学についての内部進学のことを指すようになっているようです。

この「INBREEDING」ですが、日本の場合は、これが重要視されているようです。博士課程に進学される人は、助手になることに興味のある方が多いと思います。新規学卒者から助手に採用されたものの内、自校出身者比率は、この10年間でだいたい7割(平成元年〜平成10年)といったところになっています。もしも、大学に地位を求めようと思って、博士課程に進学するのであれば、それなりの覚悟が必要でしょう。自分の所属する研究室や自分の手近なところで、助手のポストが空きそうな気配がなければ、助手のポストを得るためには、人並み以上の努力が必要になるでしょう。少なくても自分の研究分野では注目されるくらいの存在にはなっておらないといけないかもしれません。

最近は、大学の教官については、公募が一般的になってきた感じがありますが、科学技術振興事業団(http://www.jst.go.jp/)が提供する研究者人材データベース(http://jrecin.jst.go.jp/)を見ておりますと、申し込むことすら難しいと思わされてしまいます。公募サイトに載っている情報というのは、助手の選考を助手を採用する研究室の教官にゆだねるという形式ではなく、その研究室が所属している専攻全体で選考するというスタイルをとるため、自分の研究室の実力のない学生を助手にするという温情を発動することはできないようになっていると思われます。選考は、かなり公平になってきているのではないかと思うのですが、採用したい人材に求めている知識レベルがかなり狭い範囲で高度なものが要求されているのではないかということが、分野外の人間や研究室外の人間にとっては不利になると思われます。というのは、分野外の人間にとっては、その研究室がやっている研究がどのような現状にあるのか、どのような方向に発展していきつつあるのかをまず理解せねばならないでしょうし、業績面から、その研究室の分野でどれだけやっていけるかを示すことは難しいでしょう。また、研究室外の人間にとっては、その研究室の特性がどのようなものであるか、これから上司になる教授や助教授がどのような人間であるのかわからないということも生じるでしょうし、選ぶ方にしても、もともと学会や研究会などで見知った関係であれば別かもしれませんが、よくわからない人間を選ぶというのは極めてリスクの高いこととい言えるでしょう。

公募情報はたくさんでてはいるのですが、特に私のように研究分野自体が縮小傾向にあるような分野の人間にとっては、公募に応じても、まず採用されるあてはないであろうという情報ばかりであると言えます。

「INBREEDING」が盛大に行われていることの問題点は、指導教授の粗悪なコピー(自分の研究分野にしか興味を示さないような大学院生や助手)を大量に発生させて、大学の知的創造の硬直化を引き起こすということなのでしょう、多分。たとえ、公募が今後、盛大に行われるようになったとしても、現在のように特定の研究室でヘンな人間を採用してしまうリスクを抱え込む現状やかなり偏った知識や実績を必要とする現状がなくならない限りは、現在のような「INBREEDING」が続いていくのではないでしょうか?

「INBREEDING」を解消していくために、一つの研究室に一人の教授、一人の助教授、一人の助手という体制から、一つの研究室に一人の教授とたくさんの研究員という体制に改め、貴重なポストにヘンな人間をつけてしまって、研究室を荒らされるというリスクを避けることができると思います。助手や研究員のポストがたくさん用意できれば、異分野の人間を自分の研究室に入れてみようかという冒険心も出てくるのではないでしょうか?そしてそのような冒険心が高じれば、最終的には、助手・研究員のポストには、分野外の人間を積極的に受け入れて異分野の視点を積極的に取り入れていくということも可能となってくるかもしれません。そうすれば、大学側は自分のよく知っていて比較的業績をあげている人間を無難に採用しておくかという保守的な採用方針を取る必要がなくなりますし、非常勤の研究員や大学院生は自分が業績を積んできた分野から積極的に異なる分野にチャレンジしていけることにもつながると思います。分野の壁を超えて人材が混ざり合うようになれば、必然的に「INBREEDING」も解消されていくのではないでしょうかね。



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