第四回「博士の生き方」座談会の報告


2006年6月24日(土)に第四回「博士の生き方」座談会を行いました。今回は、大田区産業プラザというところで行いました。

今回の座談会の目的は、文科省のポスドクのキャリアパスの多様化促進事業の委託機関の採択を受けて、どうも、今後この事業の影響を受けるであろうポスドクや博士課程の学生たちの考えはどうなのかそれがまったくわからないなと思ったたため、今回の事業に関して彼等の意見や、彼等が本当のところは自分自身がどうなりたいと思っているのだろうかということを聞きたいと思ったことです。今回のキャリアパス多様化事業は、採択機関が決まって、各機関にお金が渡って終わりというものではなく、企画評価委員たちが、軌道修正を今後様子を見ながらおこなっていくというものでしたので、実際にサービスを受けるポスドクや学生の意見を今回ゲストでお呼びした企画評価委員会の座長でもある小林先生にぶつけてもらえたらいいなと思っておりました。

しかし、実際に参加者の募集をかけてみたところ、10名集まった人の中でポスドクは2名、博士課程の学生は3名と人数もさることながら、割合としてもサービスを受ける側の関心はいまいちだったのかなと感じました。個人的には、自分たちの意志の及ばないところで自分たちの今後の身の振り方が話し合われているということに対して危機感といいますか、恐怖心と関心をもってくれてもいいのではないかと思うところではありました。

残りの参加者の方は、今回のキャリアパス事業の採択を受けた機関の職員が1名、この事業に応募をした機関、企業の方が各1名ずつで計2名、そして、知財関係の仕事をしていて、今回の座談会のテーマに関心をもったという方が1名と、博士課程を出て現在研究ではない道を自信をもって進まれている方が1名、そして私という構成でした。

小林先生は、社会工学の研究者として、長らく科学技術政策の研究に係っておられるのですが、講演の内容としては、大雑把には、博士の供給過剰問題とポスドク問題の歴史的な流れの整理をおこなっていただき、その後、ポスドク問題に関しての捉え方について整理をいただき、最後に今回の4月に採択機関が定まったキャリアパス多様化事業に関しての概要についての説明と企画評価委員として感じている困難に関して話していただきました。

学術審議会や大学審議会においてのどの分野でどれだけの人材を供給すればよいのかという需給予測に係っておられたそうです。需給予測をしていた小林先生はマイルドな需給予測をしていたそうなのですが、例えば、1991年の大学審議会答申「大学院の量的拡大について」においては、課程別・分野別の需給予測には言及されず、総量だけが掲載されたそうです。そしてそれを根拠として人文科学系の大学院の拡大を後押ししたとのことです。また、ポストドクター1万人計画に関しても、審議会の議論や需給予測とは関係のない政治的な動きからはじまったらしいということも話されていました。また、1998年の学術審議会においても、大学院の規模の見通しについて言及されているそうなのですが、そこでも、需給予測とは関係なく大学院生(修士・博士の合計)を30万人にするという具体的な目標値があらかじめ諮問され、需給予測とは関係なく、その通りに答申されたそうです。

私は需給予測というものをどのように捉えたらいいのかはよくはわかりませんが、大学院の拡大やポスドクの拡大に関しては、合理的な判断があったというよりは、自分の分野の発展に貢献したいというある意味では勝手な思いや、政治家や役人の根拠のない希望と期待によるところに理由の一端があるのかなと感じました。

このように大学院やポスドク数の拡大が続いておりますが、このような中で、大学への信頼が低下しているのではないかという懸念を示されておりました。そのような信頼の低下が先日のニューズウィーク(2006年6月7日号)に出ていた「世界にあふれる高学歴難民」という記事などに結びつくのではないかというように述べておられました。

また、ポスドクの捉え方に関しても整理が必要で「Policy for Science(卓越性)」に基づくのか「Science for Society(社会・経済的価値)」に基づくのかで二通りのポスドクが考えられるとのことでした。「Policy for Science」の考え方では、ポスドクは研究推進の原動力であり、アカデミックポストをめぐる競争は必須だが、アカデミックポストへの移行をスムーズに運ぶことと、脱落者へのフォローが必要だとするものです。それに対して、「Science for Society」においては、ポスドクは社会への知識移転の担い手と認識され、ポスドクの位置づけとしては、アカデミックに行くものとしてよりは、社会のさまざまな場へキャリアを開拓していってもらうための準備段階としての側面をポスドクの期間に持たせたいという思いがあるようです。

前者は冷戦時代の科学動員に端があり、政府で優秀な研究者をアカデミックの場所に囲い込んでおきたいという思惑から米国で実施されていたことのようです。日本においても、学術振興会のポスドク制度はこの精神に基づくものではないかと考えられます。また、後者は、どちらかというと社会・経済的価値の追求の側面が強く打ち出されてきてからももののようです。

「Policy for Science」の立場のみを追求するのであればポスドクの数は、2000人から3000人くらいが現在の日本においては妥当ではないかという話でしたが、ポスドクの数が1万を超えるようになっている昨今においては、ポスドクのあり方も一部は「Science for Society」の方向に変っていかざるを得ないという面もあるのかもしれません。

こういった背景が、今回の科学技術人材のキャリアパス多様化促進事業に結びついていっていると小林先生は分析しているようです。そして、今回の事業委託先の募集となり、実際にまずは8機関が採択されております。小林先生の感想としては、まだまだ応募してくる機関の問題意識が甘く、今後、企画評価委員や実施機関などで作る連絡協議会などを通して改善を進めていくということでした。採択された段階においては、各機関とも具体的にどのようなアクションを起こすのかということはほとんど決まっておらず、今後、学内での抵抗や予想外のトラブルなどに見舞われつつ、問題意識を深めていき、それぞれの機関の特性などから最適な解を見つけ出していってくれることを期待するということでした。

また、小林先生が、この事業を進めていく上で直面する困難について考えておられることも述べておられたので、以下に箇条書きにしておきます。

小林先生の講演のあと、参加者から一人ずつ、自己紹介と小林先生の講演についての質問もしくは感想を述べていただくことにいたしました。

主な質問とそれに対しての回答の内容をざっと示したいと思います。

最後に、小林先生から、今回のキャリアパス事業に関して、希望・意見などあったら、それぞれの採択機関に申し出るべきであろうし、小林先生のほうに提示してもらってもいいと言われました。

今回は、とても密度の濃い時間を過ごすことができたように感じており、参加者の方々からも、よい機会であったと感想をいただいております。次回のテーマは未定でありますが、今回の座談会で得られた知識と参加者の方々の問題意識の方向性を合わせて考えて、テーマを決めていきたいと考えております。

今回、講演を引き受けてくださった小林先生と参加してくださった皆様、そして会場の設営を手伝ってくれた方々に感謝いたします。また次回もどうぞよろしくお願いいたします。


第四回「博士の生き方」座談会の案内(開催時のもの)
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