第3回アンケート調査 博士課程修了者のキャリア意識の形成と初職の選択

回答受付期間:2007年3月11日〜2007年3月20日


最近は横ばいか若干減少傾向で推移していますが、博士課程修了者数の大学院量的整備による激増と公務員の定員削減の流れの中で、アカデミック分野に常勤のポストを得ることが困難になっている現状があります。またその一方で、科学技術立国を目指すという方針のもと、イノベーションを主導する人材としての博士号取得者に対する期待が高まっています(少なくても第三期科学技術基本計画の文面や一部の業界や企業においては)。

このような流れの中で、博士号取得者のキャリアパス多様化の流れがおこることが期待されております。しかし、実際はそうはなっておらず、全体的にアカデミック志向が強いといわれております。昨年度から、科学技術関係人材のキャリアパス多様化促進事業が実施され、今年度もさらに4機関が新たに選ばれたそうです。博士号取得者のキャリアパスを多様化させるために何かをしようという考え自体は頼もしいことだと思うのですが、キャリアパス多様化において何が問題になっているのか、また問題に対してどのようにアプローチをしたらいいのかという点において、議論がなされることなく、この取組みが実施されたことは、現場に疲弊と徒労感を招いているように思われます。また、今後の大学院政策として好ましくない事態も生じているように思われます。

今回実施したアンケート調査は、大学院博士課程の制度的・文化的な側面が、学生のキャリア意識に対して何がしかの影響を与えているのではないかという仮定のもと、博士課程修了時の職業について企業に就職したものとアカデミック(ポスドク、大学・公的機関の常勤教育職・研究職)に就職したもので大学院での環境に相違があったか、また意識の面で相違があったかという点に注目をしました。

2007年3月25日に日本化学会第87春季年会(関西大学)において発表してきた資料に基づいてアンケート結果を紹介していきます。

  1. アンケート項目
  2. 背景
  3. アンケート項目解説・回答者属性
  4. 研究テーマの自己評価・他者評価
  5. 進路を考える上での環境
  6. 自分の進路に対する周囲の評価
  7. アカデミック進路以外への抵抗感
  8. 自分の進路に対する展望

今回のアンケート結果から見えたことは、企業に就職した人もアカデミックに就職した人も研究環境自体には大きな相違がないのではないかということです。つまり、どちらの場合もアカデミックの世界で自分の研究が評価されてきており、研究室では博士課程の先輩・同期はアカデミックに進んでいる人が多いという結果でした。ただ、違いがあるとすれば、アカデミック進路以外への抵抗感に関して、アカデミック就職者の場合はその理由として「元々アカデミック進路」だったというものを挙げている人が多かったのに対して、企業就職者の場合には「周囲にアカデミック以外は不可」という雰囲気があったという環境面での意見を述べる方が多かった点でしょうか。企業就職者の場合は、元々アカデミック進路だったものが何らかの理由で変更したのか、もしくは元々からどちらも考えていたというところで、周囲の環境が「アカデミック以外は不可」ということで戸惑いを感じたということなのだろうと思います。

つまり、乱暴な言い方かもしれませんが、博士課程はその雰囲気がアカデミック志向の人たちを基本的にひきつけるものであり、基本的にその志向を通常は発展強化させていくものだということなのかもしれません。そして、これは教員が意識的に作り出している場合もあるかもしれませんが、教員が学生の進路に興味をもって居ない場合も多いようなので、必ずしもそういうわけでもなく所属している学生たちの間でアカデミック志向が相互に強化されていく面もあるように感じます。

一つの示唆を与えていたのではないかと思うのは、アカデミック以外の就職に抵抗を感じなかったという薬学系の方が述べていたことで、自分の専攻では元々、企業就職も学生の間では進路の一つとして考えられていたということです。その他の専攻においてもそのような環境をいかにして作り出していくのかということが重要になるのではないかと思います。

一つの方法としては、学生の進路選択、もしくはポスドクの進路選択において「ゆさぶり」を与えることが挙げられるのではないかと思います。つまり、自分が現在描いている絵(例えば学位取得後常勤に就くこと、学位取得後ポスドクを経て常勤に就くこと、もしくは○○業界に行きたいと考えることなど)が現実に描けるものなのかということを機会あるごとに再考するように促すことではないかと思います。「進路相談者」について問うた項目では、アカデミック就職者よりも企業就職者で幅広くさまざまな人間に相談を持ちかけている姿が見えてきました。企業就職者の方がいろいろとゆさぶりを受けていた、もしくはゆさぶりを感じていた可能性は高いのではないかと思います。

このような取組みは指導教員各人がやろうと思えばできることなのではないかと思います。今回のアンケート調査の後で、さらに聞き取りをしていたのですが、どうも指導教員の学生に臨む姿勢としては割と学生の進路に無関心な人が多いのではないかと思われました。先生たちが学生の研究の進捗を気にするように、学生の進路選択における意識醸成の過程に対してもぜひ気にしてほしいところだとは思います。指導教員は、企業の現状について無知だから相談にのれないのではないかということは言われますが、少なくても大学業界に居れば、常勤職に就くことが自分の分野ではどの程度困難なことなのか、常勤職に就くにはどのくらいのレベルが必要なのかといったことはわかるのではないかと思います。そういったことを率直に伝え続けることが必要なのではないかと思います。学生はそれが自分の進路探しのきっかけになるのではないかと思います(ただの自分探しに落ちると困るのですが・・・)。

昨年度、工学研究科の博士課程学生の交流プログラムに参加させていただいたのですが、先生たちは学生たちの将来について危機意識をもっているように感じられたのですが、その気持ちは学生には伝わっていなかったのではないかと思われました。

今回のアンケート調査は、ウェブ上で回答を募ったということもあり、学生やポスドクの就職という問題について関心の高い方々が回答をしてきてくださっていると思われ、博士課程の学生・ポスドクの全般的な傾向とは異なるかもしれません。しかし、そういった関心の高い方々が、いかにして自分の進路を切り拓こうとされているのかをアンケート調査によって伺うことができたことはとても意義のあることだと思いました。今回、アンケートに回答してくださった36名の方に感謝いたします。

今後は今回のアンケート調査の結果を受けて、アンケート項目の見直しなどを進めていきたいと考えております。今年度、国立教育政策研究所の「理系高学歴者のキャリア形成に関する実証的研究」の研究分担者になっておりますが、そちらのアンケート調査にもぐりこませられたらと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。


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