第3回アンケート調査 背景


イノベーションの担い手としての学位取得者への期待が高まっています。大学院の重点化による定員増加とポスドク支援の充実によって、研究開発人材の層は厚くなってきています。しかし、学位取得者の就職状況は厳しく社会への円滑な供給は十分とはいえない状況にあり、分野によってはポスドクの就労問題が発生するに至っております。

その理由として、「学位取得者のアカデミック志向」「大学や国研におけるパーマネントポストの不足」「企業が学位取得者を高く評価していない(?)」ということが挙げられています。しかし、医薬品工業、化学工業においては化学系を中心に比較的多くの博士課程修了者を受け入れており、この事実がこれらの専攻の博士課程学生のキャリア意識の形成に影響を与えているのではないかと考えています。

化学系博士課程の学生のキャリア意識の形成過程は、他専攻の博士課程においてキャリア支援をする上での参考になる可能性もあると考えています。今回の発表では、キャリア意識の形成とそれが博士課程修了後の初職に及ぼす影響について、博士課程修了者および修了予定者に対してウェブサイトを用いて予備調査をおこなった結果を報告いたします。

まず、大学院を取り巻く現状について説明します。大学院重点化の歴史は、平成3年(1991年)の大学審議会答申「大学院の量的整備について」からにはじまります。これは、大学院生数の数を平成12年度に平成3年度の2倍以上にするというものでした。それに従い、図1、図2のように、大学院修士課程と博士課程の定員はそれぞれ大幅な増加を示しました。また修了者数も図3、図4に示すように大幅な増加を示しております。

図1:理工系大学院修士課程の入学定員と定員充足率

全国大学一覧・学校基本調査を元に作成

図2:理工系大学院博士課程の入学定員と定員充足率

全国大学一覧・学校基本調査を元に作成

※図1、図2は、いずれも理工学研究科、工学研究科、理学研究科、農学研究科、薬学研究科の合計

図3:理工系大学院修士課程の修了者数と就職率・進学率

学校基本調査を元に作成

図4:理工系大学院博士課程の修了者数と就職率

学校基本調査を元に作成

図1、図2の定員と定員充足率の関係についていえば、近年修士課程の定員充足率も収束傾向にはありますが、100%を超えております。その一方で、博士課程の定員充足率に関しては、大学院の量的整備がはじまってから(1991年以降)、一端は上がりますがその後、再び下がり始め、60%程度まで落ち込んでしまっております。また図3、図4の就職率に関しては、修士課程に関しては、80%程度をキープし続けており、進学率と合わせると90%程度となっており、社会への学生の供給がなされていると考えられます。しかし、博士課程の就職率に関しては60%を切るあたりで推移をしている上、就職者の内訳の多くはアカデミックパスであり(大学教員、科学研究者(ポスドク含む))、必ずしも幅広くアカデミックの外に出て行っているという現状にはなっておりません。

また、仮にアカデミック進路を選んだとしても常勤のポストが得られるかというとかなり厳しい状況になっております。図5に大学教員数の推移を、図6に新規助手(助教)の採用数の推移を示します。

図5:大学教員数の推移

学校基本調査を元に作成

図6:大学助手の採用数の推移

科学技術学術審議会・人材委員会資料より

図5より、大学教員数は、全体的には増えておりますが、それは教授、助教授の増加によってなされており、助手数に関しては近年微増に留まっていることがわかります。また、国立大学教員数に関しては、2006年度において減少に転じていることがみてとれます。図6の新規助手数に関しても、ほとんど横ばいであることがわかります。このことから、大学における研究の活性化は多くの部分を増加したポスドクおよび大学院生が担っているのではないかと考えることができます。

一方、企業においては、図7、図8に示すように、研究開発投資および研究者数が右肩上がりで伸び続けております。また、図8より、従業員に示す研究者数も増え続けており、企業が人材を研究開発にシフトさせつつあることもわかります。

図7:研究開発投資の推移と企業の研究費の対売上高比

科学技術研究調査報告より

図8:研究本務者数の推移と従業員1万人あたりの研究本務者数

科学技術研究調査報告より

特に、図9に示すように化学業界(化学工業、石油、石炭製品製造業)における博士課程修了者数は相対的に他の産業に比べて多いことがわかる。

図9:産業ごとの博士卒就職者数と修士卒就職者数に対する割合(平成16年度)

学校基本調査(平成16年度)より

以上より、化学工業に人材を輩出する化学系専攻・薬学系専攻においては、アカデミック志向が強いと一般的に信じられている傾向とはキャリアに対する考え方が異なるのではないかと考えております。



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