第41回:博士の望む就職先


昨日は、第40回において、学部→修士→博士と進んでいく過程は、進路を収斂させていく過程である、そして、博士課程の魅力というのは大学教員や公的機関の研究員になるための養成課程であることにあるのではないかと述べました。

しかし、現在においては、大学教員や公的機関で終身の身分を得られる人というのはごく限られた人だけです。では、大学教員や公的機関へ行けなかった人たちはどこへ行けばいいのでしょうか?

最近では、人材派遣などの人材サービス会社が甘い言葉で擦り寄ってきたりもしていますし、大学や研究機関、時として役所までもがさまざまなキャリアを考え始めています。彼等はいろいろな職業や働き方を提示しますが、それらが果たしてどれだけ博士課程を卒業した人たちの琴線に触れることができるのだろうかと感じてしまいます。

一体、博士課程を出た学生たちは大学に残れなかったとき、どのような職業に就くことを望んでいるのでしょうか?不完全なデータではあるのですが、名古屋大学のノンリサーチキャリアパス事業が今年の8月27日にキャリアパス事業のキックオフシンポジムを開催したときに、来場した方々からとったアンケート調査の結果を掲載されているデータが参考になると思います。

このアンケートの、問4から問8は、私が作成したのですが、かねがね確認したいと思っていたことなので、今回それをできてうれしかったです。もっとも、無作為抽出のアンケートではなく、母集団がキャリアパスシンポジウムに来場した人ということで、平均的な博士課程の学生やポスドクというわけではないかもしれないので、そのことは割り引いて考える必要はあるだろうと思います。

今回、話題にしたい問4から問8について考察をする前に、回答者の属性についてざっと記しておきたいと思います。

  1. 回答者総数:73名
  2. 年齢:
  3. 所属:
  4. 現在の立場:
  5. 学部など:

問7、問8は、今回の議題とは少し異なりますので、ここでは触れません。ここでは特に問6について考えていきたいと思っております。ここで「現在の立場」で「その他」と書かれた方は、大学の教員だったり、文字通りその他の人であるので、以下で取り上げる問6には関係しません。

問6について考える前に、まず、問4の現在の回答者のキャリアプランについて記しておきたいと思います。複数回答可となっているので、何人が回答をしたのかよくわからないのですが、結果は下記の通りとなっております。

未定と書かれた方が、21名もいるということが気になるところですが、アカデミックポジションを目指している人が29名と最多となっております。企業の研究開発職、研究・開発職以外と書かれた方の中には、アカデミックポジションも選んでいる人がいると思うのですが、結構な人数が考えていることがわかります。研究開発職以外の就職を考えている人が結構多いというのは、名古屋大学の事業が、ノンリサーチにしぼっているために、それに興味のある人が集まったということなのかもしれないと考慮しておく必要はあると思います。

ここまでおさえた上で、仮に民間企業に就職する場合の就職希望条件を尋ねた問6を見ていくことにしたいと思います。

まずは、問6の回答をここに転載したいと思います。

表1 会社の規模についての希望

表2 給料についての希望

表3 職種についての希望

表4 仕事内容についての希望

表5 雇用条件についての希望

ここでの回答ですが、回答者の方々に、自分の希望について順位をつけてもらっております。そのため、例えば、表1を見た場合、大企業への就職希望が1位と回答した方が37名、中企業への就職希望を1位とした方が22名、小企業への就職希望が1位という方が6名いるということを指しております。そして、1位にいずれかの規模の企業を挙げた方の中で、就職希望として大企業を2位とされた方が10名、中企業を2位とされた方が28名いるというように読んでいきます。

まず、表1の会社の規模に関してですが、大企業か中企業への就職希望を第一位に挙げておられる方が大半だということがわかります。人によって企業についてのイメージが異なると思うのですが、ここで中企業というと自力でなんらかの研究開発をおこなえる程度の規模の企業(従業員数で数百人レベル)を想定している人が多いのではなかろうかと考えます。

表2の給料に関して言うと、修士卒同年齢の人たちと比較して高めか同程度の給料をできれば希望したいという人が大半を占めていることがわかります。

また、表3の職種に関しては、研究開発職以外を第一位にしておられる方も結構多いのですが、研究開発職を希望しているという人の方が多いことがわかります。「ノン・リサーチ」を表題にしているシンポジウムにおいてもこのような傾向が出ていることを考えると実際には、研究開発職を就職先として考えたい人というのはもっと多いのではないかと考えてもよいのではないかと思います。

表4の仕事内容に関しては、専門性の生かせる仕事を選ばれた方も多いのですが、興味の持てる仕事を選ばれた方も多いことがわかります。ただ、この項目に関しては、専門性の生かせる仕事がイコール興味の持てる仕事である場合が多いようにも感じますので、少しアンケートの作り方が浅かったかなと振り返って反省をしております。しかし、いずれにしてもなんらかのこだわりをもって仕事をしたいという希望があることはわかるのではないかと思います。

また、表5の雇用条件に関しては、当たり前といえば当たり前なのですが、終身雇用を望む方が多いことがわかります。

以上の結果から最大公約数を取ると、まともな研究開発のできる大企業か中規模の企業で、給料は修士卒同年齢よりも高めかせめて同程度、職種としては研究開発職、仕事内容としては、興味の持てる仕事か専門性の生かせる仕事、そして雇用条件としては終身雇用という形が得られます。

キャリア支援をする場合は、闇雲に就職先を探してくるというよりは上記のことをまずは念頭において就職先としてふさわしい企業を選んでいくことが必要ではないかと思います。今後、ポスドクや博士課程の学生にキャリアパス事業をおこなっていく大学・研究機関は増える予定なのですが、現在、キャリアパス事業があたった大学というのは、ほとんどが、学部・修士の就職に関してはかなり恵まれた状況にあるところですし、国からも多額の予算が下りているところです。当然、博士課程の学生には多額のお金が投じられているわけで、彼等の能力が活かせるところに導いていくべきですし、ポスドクや博士課程を出た学生が、自分の同級生と比べて遜色の無い(できればより恵まれている)進路を歩むことができることを示していくということが、博士課程の魅力を高めることにもつながっていくのではないかと思います。

もしも、博士課程の学生やポスドクを大学発のベンチャー企業などの小企業に送りこんでクラスターを形成するというようなことを実行したいというのであれば、それはあくまでもメジャーな選択肢ではないという前提でおこなうべきだろうと思います。そして、そのようなプロジェクトを実施する場合においても、送り込むポスドクの肩書きはあくまでも大学所属のポスドク・職員という形にして、嫌であれば大学に戻ってこられるという形をとっておく必要があるだろうと思います。そして本人がその企業に入りたいということになったら、そのときに移籍をするという形にするのがよいだろうと思います(移籍後もその企業や本人が大学の周辺におられるようにすることも必要だろうと思います)。決して、学生やポスドクを片道切符で追い払うということはやってはいけないと思います。

以上、三回にわたって、私が現在、思っていることを述べてまいりました。要約すると、大学→大学院と進むにあたって、キャリアというものは収斂されてくるので、そのことを踏まえてキャリア指導をしていくべきだろうということが一点。そして、キャリア支援を受ける側の博士課程の学生やポスドクというのは、仮にアカデミックへの就職ができない場合においても、できることであれば研究開発に取り組める環境を求めているのではないかということが二点目です。また、個々人が人生の選択肢として、さまざまなキャリアを歩もうと考えることについては好きにすればいいのではないかと思うのですが、大学や研究機関が研究開発職以外のキャリアも積極的に考えさせようとするのはいかがなものかと感じております。

それぞれの大学内では、キャリアパスの支援事業以外にもさまざまな人材育成系のプログラムが走っていたりするのですが、それらをとりまとめる形で、キャリアパス支援事業がなりたっていったらいいのではなかろうかと感じております。博士課程の学生に対してのキャリア指導は、学部とうまく連携をとっていければよい方向に動いていくのではないかと思うのですが、ポスドクやポスドクとしてカウントされないまま大学に滞留してしまっている人たちをどのように支援していくのかということは、博士課程の学生への支援とはつながりをもっておらないといけないのですが、ある程度学生の場合とは分けて考えなければいけないことだろうとも感じております。




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