第40回:学部生の就職と大学院生の就職


前回は、学部から修士、修士から博士へのそれぞれの進学率の比較と、それぞれの課程における就職率の相違についてデータを示しました。そこから、就職ということに関して、学部から修士に進学することに関しては、就職に関してメリットがありそうということがうっすらと感じられましたが、修士から博士課程に進学することに関しては就職ということに関してはメリットがないということがわかりました。そしてそれにもかかわらず特に理学系・農学系において少なくない割合で、博士課程に進学していることもわかりました。

前回は、各課程での就職率と進学率のみをみましたが、今回はもうすこしつっこんで、各課程の修了者がどのような職業についているのかという点に注目してみたいと思います。そこから各課程での教育が学生に対して何をもたらすのか、もしくは各課程がどのようなフィルタ機能をもっているのかということを考えてみたいと思います。

まずはじめに、各課程での就職者の職業別の割合を示したいと思います。

図1 理工系学部卒業者のうちの就職者に対する職業別就職者割合(平成17年3月時点)

学校基本調査報告書より

図2 理工系修士課程修了者のうちの就職者に対する職業別就職者割合(平成17年3月時点)

学校基本調査報告書より

図3 理工系博士課程修了者のうちの就職者に対する職業別就職者割合(平成17年3月時点)

学校基本調査報告書より

見ていただきたいのは、学部→修士→博士と進むにしたがって、「専門的・技術的職業」に就く割合が高まっていっているということです。別な言い方をすれば、就職に多様性がなくなっていく過程であるとも言えます。学部卒業者では、事務系の仕事や販売の仕事(営業など)に行く割合も多いのですが、そのような進路をとる割合は課程を進むにしたがって減少していきます。リクナビなどの就職情報サイトを見ておりますと、商社などで理系大学院生歓迎と書かれてあるのをよく見ますが、そのような進路をとるのは大学院生では少数派であるようです。

また、専門的・技術的職業に就いたものの分野別の内訳を下記に記すと以下のようになります。

図4 理工系学部卒業者で専門的・技術的職業についた者の分野別内訳(平成17年3月時点)

学校基本調査報告書より

図5 理工系修士課程修了者で専門的・技術的職業についた者の分野別内訳(平成17年3月時点)

学校基本調査報告書より

図6 理工系博士課程修了者で専門的・技術的職業についた者の分野別内訳(平成17年3月時点)

学校基本調査報告書より

まずは、学部(図4)と修士(図5)についてみてみたいと思うのですが、農学系、工学系に関しては、農学系の修士で科学研究者になる割合が大幅に増えたり(この科学研究者が何を指しているのか(ポスドクなのか、試験場の職員のようなものなのかいまいち判然としないのですが)と若干の違いがあるのですが、おおよそ自分の専攻した分野へ就職しているのではないかと予想をすることができます。ただ理学系に関しては、特に学部卒(図4)において情報処理技術者になるものの割合が突出して多いことに気づくと思います。これは多くの場合、SEを指していると思われます。別にSEになることは悪いことではないですし、SEになった後でその職業を選んでよかったと思っている人もいるとは思うのですが、これだけの割合でとなると果たして自ら進んでSEになった人はどの程度の割合なのだろうかとは考えてしまいます。どちらかというと、SEになるしかなかったと考えるのが自然なのではなかろうかと感じております。理学系においては、工学系のように手厚い就職指導がないということをしばしば聞きますが、そのようなことが就職希望者の就職機会を狭めることにつながっているのかもしれないと考えます。しかし、理学系においても、修士課程となると学部よりも、分野に多様性が出てきて、それなりに自分の学んだことに結びつくような職業を選んでいるのではないかという予想をすることができます。

そして、図6の博士課程に関してなのですが、工学系に関しては比較的企業などへの就職もあり多様性が確保されているようなのですが、理学系、農学系に関しては、「科学研究者」「教員」に集中している様子がわかると思います。また、教員(大学教員の割合が多いです)と科学研究者が多いというのは、学部課程、修士課程には見られない現象で、博士課程が、修士課程、学部とは異なり、公的機関の研究者(科学研究者の行き先)、大学教員・研究者(特に公的機関への)の養成課程として機能している(少なくてもそうなることを志向する人材が集まっているか、もしくはそうなるように求められている)ということを再認識させられます。

私は、学部から修士課程に行くにしたがって、専門的・技術的な職業に就職口が収斂されていくことを悪いことだとは思っておりません。また、博士課程に関しても、それが大学教員・公的機関の研究者の養成課程となっていることについて、そのことが毎年1万人以上の人たちをひき付けている(全員とは言わないまでも大学に残りたいと思って入学してくる人は私の実感としても、次回に示すアンケート調査の結果を鑑みても、多いと感じております)ことを考えると、そのことが博士課程の魅力なのではないかと考えることもできるのではないかと思います。

博士課程やポスドクに対しては、キャリアパスの多様化ということが言われるようになってきておりますが、博士課程の修了者に対して研究開発系以外へのキャリアパスを唱えるのはあまり有効ではないように感じられます。一つには、理工系のキャリアパスが元々多様ではないということ(選べば選択肢はいくらでもあるのでしょうけれど、「その他」の道が吸収できる雇用はそれほど大きなものではないでしょう)があります。また、博士課程に進んできた人間にも、それぞれ多くは自由意志に基づいて進路を選んできているはずで(自分の所属している環境による影響は受けているでしょうけれど)、自分で人生を選んできた方々に対していまさらいろいろな可能性があるんだよと説くことは余計なおせっかいなような気もしますし、可能性として示されている職業がそれほど魅力的に映らない場合が多いという問題もあるように思います。博士課程の学生が多様なキャリアパスを歩まないといけないということは、そのこと自体が博士課程の魅力を減じてしまうことにもつながってしまうのではないかと危惧をいたします。

博士課程の現在もっている魅力をより高めるために、現在、大学教員になるためのしきいはきわめて高くなっているとは思うのですが、そのしきいが本当に高いということを明確し、それにチャレンジすることは人生を損ねることではないしすばらしいことなんだと示すことが一つの方法なのではないかと感じております。例えば、博士課程を大学教員養成のための課程であると明確に打ち出し、大学教員として一流になれるための教育を受ける機会と研究の機会を与え、学生たちも納得できる方式で選ばれた優秀な卒業生を大学教員として迎え入れるという方法があると思います。ただ、この場合同時に、自分たちが選ばれなかったときに納得して大学の外に出て行けるように、大学として学生が納得できる就職先を確保しておかなければならないと考えます。これは一つの大学では無理でしょうからいくつかの大学で連携してやるということもあってもいいのではないかと思います。

次回、博士課程の学生はどの程度のレベルであれば納得して就職する可能性があるのかということの一つのデータを示したいと思います。

今回のデータの元資料です。

図7 理工系学部卒業者のうち職業別就職者数(平成17年3月時点)

学校基本調査報告書より

図8 理工系修士課程修了者のうち職業別就職者数(平成17年3月時点)

学校基本調査報告書より

図9 理工系博士課程修了者のうち職業別就職者数(平成17年3月時点)

学校基本調査報告書より

図10 理工系学部卒業者で専門的・技術的職業についた者の分野別内訳(平成17年3月時点)

学校基本調査報告書より

図11 理工系修士課程修了者で専門的・技術的職業についた者の分野別内訳(平成17年3月時点)

学校基本調査報告書より

図12 理工系博士課程修了者で専門的・技術的職業についた者の分野別内訳(平成17年3月時点)

学校基本調査報告書より




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