第39回:どうしてこうなってしまったのか?


科学関係技術人材のキャリアパス多様化促進事業がはじまって半年ほどがたち、活動を紹介するホームページを設ける大学(北大、東北大、名古屋大、山口大、九州大)も出てきておりますし、7月の半ばには、科学技術関係人材のキャリアパス多様化促進事業連絡協議会(第一回)なるものも開催されて、各大学・研究機関での取り組み状況について情報交換が行われております。連絡協議会において話し合われた議事録、資料が公開されており、それに目を通して良心的にこの事業をおこなおうとしているところが多いなと感じたました。ポスドクや博士課程の学生に対する直接的な就職支援だけではなく、大学のカリキュラム改革や大学教員の意識改革、学生へのキャリア開発支援の計画など、一種の予防的な取り組みをしようと考えているところが多くなっておりました。

予防に取り組むというのはとても大切なことだと思いますし、目の付け所としては正しいと思うのですが、それでは、そのような予防的な取り組みとして一体何をおこなえばいいのだろうかというところでは、実効性に疑問をもつものも多くありました。では、一体、どういった点に注目したらよいのか私なりに数回にわたって今思っていることを書いてみたいと思っております。どちらかというと問題提起になるのではないかと思いますが、よろしくお付き合いください。

まず、皆様に、下記のグラフを見ていただきたいと思います。

図1 理工系学部の卒業者数に対する進路別割合(平成17年3月時点)

学校基本調査報告書より

図2 理工系修士課程修了者数に対する進路別割合(平成17年3月時点)

学校基本調査報告書より

図3 理工系博士課程修了者数に対する進路別割合(平成17年3月時点)

学校基本調査報告書より

図1〜図3は、それぞれ大学学部の理学系、工学系、農学系の卒業者数に対する進路別割合、大学院修士課程の理学系、工学系、農学系、その他・自然科学系の修了者に対する進路別割合、そして最後が大学院博士課程修了者に対する進路別割合です。ここで、「その他・自然科学系」と記している中には、最近はやりの複合領域や生命系の研究科、環境系の研究科が多く含まれております。

また、ここで一時的な仕事というのはアルバイトや派遣社員、非常勤講師、非常勤研究員などが含まれるのではないかと考えられます(任期付き研究員に関しては、大学・研究機関の定員内の人員として雇われている場合は、恐らく就職者の中の科学研究者という分類に含まれると考えられますが、どこまで明確に線引きをして統計をとっているのかはわかりません)。また、「その他」というのには、卒業時点で仕事がない場合、研究生をする場合などを指しています。

まず、進学者割合に関してですが、学部から修士への進学(図1)よりも、修士から博士への進学(図2)で、大きく減少していることがわかります。学部の場合だと、理学系が、工学系、農学系よりもかなり多く進学しております。理学系と工学系の相違に関しては、恐らくは、工学系の場合は、私立大学の在籍数が国立大学の在籍者よりもかなり多いことが影響しているようです。国立大学の方が私立大学からよりも圧倒的に進学者数が多いというのは統計からでは理由がわからないのですが、同じ大学へ進学するのであれば進学はしやすいでしょうし、進学がしやすいということが進学するのが当然という雰囲気をあるいは生み出しているのかもしれませんし、国立大学の教員側に大学院に進学するのが当然だという意識があるのかもしれません。農学系が理学系・工学系よりも進学者割合が少なくなるのは、統計資料からだけではよくわかりません。農学系の場合は、生命関係の研究なども行われているのですが、それだけではなく、農業経済や開発計画のような文理融合的な研究も多く行われており、そういったことがもしかしたら進学にも影響を与えているのかもしれません。

次に「一時的な仕事・その他」に関してですが、学部卒業と修士卒業を比較して、農学系ではほとんど変化ないのですが、理学系、工学系に関しては減少しております。特に工学系での減少の割合はきわめて大きくなっております。しかし、博士課程の学生については、逆に大幅に卒業時点で一時的な仕事・その他に含まれる人が多くなることがわかります。また、就職率も大幅に下がっております。

単純に就職ということを考えると、学部から修士課程に進学することは就職のしやすさという点では合理的であるように考えられますが、理学系、農学系、その他の自然科学系において少なくない割合の人が、修士課程から博士課程に進学するというのは、合理的とは思えません。アカデミックに進みたいと思っている人が多いからとも言われるし、確かにアンケートをとってみるとそのような傾向はでます。しかし、アカデミック分野への就職はとても厳しいということは少なくても学生たちは知識としては知っているはずですので、あえてそこを選ぶというのはなぜなのだろうかということは考えないといけないと思います。大学の先生が進学を進めるからという理由も大きな理由の一つとしてはあるかもしれませんが(大学の先生が進学を進めることにどういったメリットがあるのかを考えた上で、それが問題だというのであれば対策を講じないといけないとは思いますが)、問題はそういった単純なことではないのかもしれません。別に大学に限ったことではないのですが、人間は自分が置かれている文化的な環境に大きく影響を受けていると思います。さまざまな道があると示すことや、インターンシップに放り込むことは、そういった道がありえないと考えている人にとっては果たして意味があるのだろうかと考えてしまいます。極端な例を挙げるとすれば、皆さんがお笑い芸人や歌手になる道があるんだよと言われて、演芸場に体験生として放り込まれたとして、果たしてどれだけの人がその道を真剣に考えるというのでしょうか?

私の場合も、博士課程に進むまでの間に、そして博士課程に進んでからも何度か自分の進路を考える機会というものはありました。一例を挙げるとすると、母校の高校での教育実習が挙げられます(阪大は工学部でも、理科と数学の教員免許がとれるのです)。教育実習の経験は私にとっては、博士課程のときに行ったシンクタンクでのインターンシップ経験とは比べ物にならないくらい強烈な経験でしたし、やりがいも感じていたのですが、それを仕事にしようという思い切りは最後までもてませんでした。それは、多分、私自身の中に、出身学科で身に着けてしまった行動様式や思考様式がしみついてしまっていたことが一つの原因としてあるのかもしれません。これは別に悪いことではないとは思うのですが、それがどういった効果をもたらすのか、もう少し資料を見てみたいと思います。

今回のグラフの元資料です。

図4 理工系学部卒業生数と進路別人数(平成17年3月時点)

学校基本調査報告書より

図5 理工系修士課程修了者数と進路別人数(平成17年3月時点)

学校基本調査報告書より

図6 理工系博士課程修了者数と進路別人数(平成17年3月時点)

学校基本調査報告書より




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