第33回:未来が開かれるために


先日、主に博士課程やポスドクを対象としたベンチャー企業への就職イベントの見学に行ってきました(私自身は転職の意思はまったくないのですが)。イベントそのものはつつがなく進行して行ったし、参加者の皆様もそれなりに得るとこともあったようで、会は成功といってもよかったと思います。

ただ、参加者の学生の方々の一部と話していて、どうも彼等の中になんとなく煮え切らないものを感じたのも事実です。

前に、友人と話していたときに指摘されたことでもあったのですが、ベンチャー企業のネームバリューと給与に問題があるのではないかと感じております。

就職イベントのときに主催者の方に参加企業の給与についてうかがったところ、だいたい大企業と呼ばれるところの8割くらいの給料だろうということを言われました(もちろん大企業並みかそれ以上の給料のところもあれば人を馬鹿にしたような給料や待遇のところもありという感じで千差万別ようですが)

博士課程を修了した後に、ポスドクを続けた場合、給与面で不遇を味わうというのはなんとなく理解できることだとは思うのですが、だからといって果たして、ベンチャー企業や中小企業に就職するという選択肢が人生設計を行ううえでよい選択なのかどうかというのは、それによって得るもの、失うものを考えて慎重に行動をする必要があるように思います。

参考までに、1000人以上の大企業に勤めた場合、100人〜999人の規模の企業に勤めた場合、10人〜99人の規模の小企業に勤めた場合と、月給33万円のポスドク(機関研究員など)を続けた場合、月給50万円のポスドクを30歳から続けた場合のそれぞれについて30歳から勤めた場合について60歳までの総所得を5年ごとにグラフに描いてまとめてみました。

図1 30歳からの企業規模別・ポスドク賃金別総所得

平成16年度・労働統計要覧(厚生労働省大臣官房統計情報部 編)より

※参照したデータは最後に記す

参照したデータでは、企業規模別では5年刻みで各規模での平均月給と賞与が与えられておりましたので、平均月給の12倍に賞与を足したものを一年間の所得と考えて、例えば30歳から34歳までの期間に関しては、これに5年をかけたものを5年間での総所得と考えました。また、月給33万円、50万円のポスドクに関しては、それぞれの月給で30歳からずっと働いたと仮定して計算をおこないました。とてもラフな計算ではあります(かならずし、データで示したような賃金水準が維持できるという保障もありませんし)。

例えば、企業規模別で見た場合、30歳から60歳まで勤め上げた場合、1000人以上の企業では、およそ2億5000万円得られるのに対して、100人〜999人の規模の企業では2億円、10人〜99人の規模の企業となると1億7000万円となってしまいます。また、企業に入った場合とポスドクをずっと続けた場合に関してですが、月給33万円でずっと働き続けた場合は、どの企業規模と比べた場合でも、負けてしまうのですが、月給50万円の場合でも、35歳までの総所得で1000人以上の規模の企業に負け、50歳までの総所得で100人から999人の規模の企業に負けてしまいます。ただ、10人〜99人の規模の企業と比べると賃金的にはよいようです。

私自身は、ベンチャーへの就職についてはかなり消極的なのですが、それというのも、どうも、ベンチャーの経営者の中には、自分たちが多大なリスクを背負っているのと同様に、従業員にも人生におけるリスクをかなり背負わせようとしている人たちがいるように感じるからです。

例えば、博士課程の学生を、恐らくは修士課程で就職していたらいけていたであろう大手企業と比べたら、低い給与水準で雇用しようとするというのはその典型かもしれませんが、もっとひどい場合には、正社員としてではなく、一年契約の契約社員として雇うとか、さらにひどければ、派遣社員としてきてもらって、しばらく様子を見てから(3ヶ月とか6ヶ月くらい)、雇うかどうかを決めるという場合もあるようです。

世間から名前の知られていない企業で低い給与水準で働くというのは、働いているベンチャーがつぶれた場合や転職をするといった場合に、労働市場において、自分を売り込む上で大きな障害となりかねないと考えております。ましてや、派遣社員となるとなおされかもしれません。

ベンチャーや中小企業においては、「優秀な人」がきてくれなくて困っているという話を聞いたことがありますが、ネームバリューや、賃金・処遇の面で、優秀な人がとてもではないけれど入れないということも一因としてあるように思います。

ポスドクや博士課程の学生の経歴を見ると、概ね世間では名の通った大学の出身者が割合として多いように思います。私のそうですが、彼等が修士課程にいるときまでは、だいたい世間的には名の知れた企業から学部や学科に求人が来ますし、それを当たり前だと考えていると思います。

そういったポスドクや博士課程の学生たちが、概ねベンチャーに見向きもしないのは、修士課程までで就職できる会社に比べてあまりに知名度の面で、待遇の面で低いということが原因ではないかと思います。ポスドクが低い給与に耐えることができるのも、将来、大学や研究機関に正規職員の地位を得られるかもしれないという期待があってのことでしょう。

将来的には、ベンチャー企業や中小企業も、就職先として安心して紹介できるようになったらいいなとは思うのですが、そのためには、まず、入ってくる従業員がリスクを必要以上にリスクを背負う必要なく業務に邁進できる環境を提供できるように、まずは、ベンチャーや中小企業の経営者方が従業員への処遇を改善していくことが必要ではないかと思います。

※今回の図1を描くのに参考にしたデータを以下に示します。

図2 製造業企業規模別・男性管理・事務・技術労働者現金給与額(大卒者)

平成16年度・労働統計要覧

厚生労働省大臣官房統計情報部 編

図3 製造業企業規模別・男性管理・事務・技術労働者年間賞与・特別給与支払額(大卒者)

平成16年度・労働統計要覧

厚生労働省大臣官房統計情報部 編




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