第27回:企業の求める博士像


「博士」は使えないという趣旨の話をよく耳にします。哀しい話ですが、そのように思われている面はあるのではないかと思います。では、いったい、何をもって博士を使えないと考えているのか、また、どのような方々が博士を使えないと考えているのか、そして「博士」を使えると考えている方々はいないのかを今回、少し考えてみたいと思います。

「平成14年度・民間企業の研究活動に関する調査報告」(文部科学省)に、「新卒で採用した博士課程修了の研究者、ポストドクターの資質」に関して、過去5年間に採用したものに対して、その資質全般についてどのような印象を持っているのかというアンケートをとっております。まずは、結果の図を以下に示したいと思います。

図1 新卒で採用した博士課程修了の研究者、ポスドクの資質

平成14年度・民間企業の研究活動に関する調査報告


この図は、博士課程修了の研究者、ポストドクターの採用実績がある企業(650社)に対してアンケートをとったもので、横軸の比率は、採用実績がある企業に対しての回答者の割合になっています。ここで、採用実績のある企業について、「毎年必ず採用している」「ほぼ毎年採用している」「採用する年もある」「ほとんど採用していない」というように4段階に分けて図に示しております。それぞれの企業数を示すと以下の表のようになります。

分類回答企業数(新卒博士に対して)回答企業数(ポスドクに対して)
毎年必ず採用している384
ほぼ毎年採用している6414
採用する年もある320158
ほとんど採用していない219195
全く採用していない390639
無回答3051

表1:博士・ポスドクの採用実績に関しての採用の傾向


この図で、新卒博士に対しての数字を合計しても、641社にしかならず、650社にはなりません。どうやら、処理をするときに、博士課程修了の研究者とポストドクターとで採用実績の高い方を採用しているとのことなので、若干ポストドクターがかぶってくるところもあるのかもしれません。なんにしても、あまり大きな違いではないと考えることにして、新卒博士に対する採用実績の数字を見ながら、考えていこう思います。

図1では、企業が博士・ポスドクの資質に対して抱いていた期待がどの程度満たされているのかでわけて示しています。そもそも資質というのがどのようなものがあいまいなのですが、一応、研究者として雇われる場合が多いと思いますので、おそらくは、以前、「第24回:博士に行って何を高めるか?」の図1に示したような研究に対しての専門性や柔軟性、研究をまとめあげるだけの力量であったり、図2に示したような図1で示したような事柄を成し遂げるために必要な粘り強さや達成意欲だったりするのだと思います。企業の期待をどの程度満たしていたかという点に関しては、各企業によって期待の高さが違うと思うので、一概にどの程度とは言えないのでしょう。

で、図1に戻りますが、数字の合計だけを見ると、「期待を下回る」と答えた企業が8%程度と少なく、「ほぼ期待通り」と答えた企業が4割程度となかなか大きくなっています。しかし、「(この5年間)採用実績がない」と答えている企業も約4割程度とかなり大きな数字になっているのも、気になるところです。なんにしても企業に採用された博士の方々はなかなかがんばっているように思われます。

この図1を表1と絡ませながら見ていくと、もう少し細かく考えることができます。「ほぼ期待通り」と回答している割合が、「毎年必ず採用している」企業が4.8%、「ほぼ毎年採用している」企業が7.7%となります。それぞれに採用実績があると回答した企業数650社をかけると、「毎年必ず採用している」企業が31社(38社(新卒博士に関して))、「ほぼ毎年採用している」企業が50社(64社中(新卒博士に関して))となります。特に、「毎年必ず採用している」企業に関しては、採用した博士に対して、満足している企業がかなり多いようです。それぞれの企業ごとに、採用時に博士を見極めるノウハウとか、博士を活かす環境を整えているのかもしれません。

また、「期待を下回る」と回答している企業数は8%程度と少ないのですが、その内訳を見ると、「採用する年もある」と回答している企業が多いことがわかります。どういういきさつで採用しているのかはわかりませんが、「期待を下回る」と回答した企業に対してさらに、期待を下回った理由についてたずねています。図2に、その結果を示します。

図2 新卒で採用した博士課程修了の研究者、ポストドクターの資質が期待を下回る理由

平成14年度・民間企業の研究活動に関する調査報告


図2を見ますと、上位4つ「社会経験に乏しく、企業のニーズに無関心」「独創性が育っていない」「ビジネスやマネジメント等の社会的案教育が不十分」「成果のでやすい研究テーマを与えるなど、真の実力が身についていない」ということが、博士がだめな理由と考えているようです。一番上に来た「社会での経験に乏しく、企業のニーズに無関心」といったことは、博士の方々やポスドクの方々の個々人の問題であると思うのですが、二番目の「独創性が育っていない」4番目の「成果の出やすい研究テーマを与えるなど・・・」ということは、大学での指導体制やポスドク期間中の環境の問題も多いのではないかと思います。

また、図1において「(この5年間)採用実績がない」と回答している企業の多さも気になるところです。いったいなぜ採用しないのか、もしかしたら、「期待を下回る」と回答した企業と同じ理由で採用をしていないという企業もあるのかもしれません。次回、もう少し考えてみたいと思います。

最後になりましたが、博士を恒常的に採用している会社には、それなりに博士を評価するベースがあるらしいという例を示したいと思います。以下に引用する文章は「大阪大学工業会誌・テクノネット」(社団法人・大阪大学工業会)の2003年1月号に載っていた「2003年新春座談会・大学改革『学術研究と高等教育』」という企画で、大阪大学の教官たちとM電機の人事部の方が主に、学生への研究や学問のさせ方などについて話し合ったものです。以下に博士の採用に関してM電機の方が語ったことを引用させていただきます。

「我々企業人がなぜドクター卒を採用しないかというのは、阪大のような優秀な大学でドクターを取得した学生には、大きく2通りあるんです。学会でも非常に名の通った教授のもとで、教授の指示のままに、高度なテクニックを使って論文を書いたという学生は、企業としてはウェルカムではないのです。一方、教授が非常に我慢もしながらも、テーマアップから学生自身に苦労をさせながらやらせる。そういう研究室で育った学生は、ドクター卒でも、企業で伸びます。つまり、テーマ設定や企業での仕事というのは、一人では絶対できません。だからドクターコースでも、マスターコースの学生や学部の学生を上手く使いながら彼らのやる気を引き出して、しかもその成果がちゃんとトータルアップするような組織活用力が身に備わっている卒業生は企業に入ってもある助走期間を経たら、早く企業に入った人よりベースがしっかりとしているので、非常に伸びます。だから研究者としての自立性を持ったドクター卒か、そうではないドクター卒かというのは、企業側が採用するときに、しっかり見極めています。最近、多くの企業は大学名より、大学の研究室単位で学生を採用する傾向にありますね。例えば、○△研究室に所属していた学生は、かなり安心して採用できるといった具合なんです。つまり、10年経ち、20年経つと、○△研究室に所属していた社員は、少しクセがあるけれど非常に良い仕事をするとか、入社後の伸びが良いとか、これはどの企業の人も言っていますね。ですから企業は何の根拠もなくドクター卒よりもマスター卒を採用して、社内教育すると言っているわけではないのです。これは、大学における人材育成の今後の課題ではないでしょうか。」

これからの博士のありかた、大学のあり方についても考えさせられます。私自身が体験したことではないのですが、知り合いの博士の方で、就職フェアでブースを回ったときに、とある企業のブースで、博士の採用は、共同研究をしている研究室からしかおこなっていないという趣旨のことを言われた方もいらっしゃいます。博士課程でどのような研究環境を手に入れるのか、その環境でどのように過ごすのかが将来の進路選択において幅を広げるか狭めるかを決めることになりそうです。




一つ前に戻る
次へ
もどる