第25回:増える研究者


平成15年度の科学技術白書によると、日本には、2002年時点で75万人の研究者がいるそうです。これは、総務省の科学技術研究調査に基づくもので、ここでいう「研究者」とは「企業、研究機関、大学等において、大学(短期大学は除く)又はこれと同等以上の専門知識を有するもので、特定のテーマをもって研究をおこなっているもの」という定義だそうです。この数字は、世界でも有数で、人口1万人あたりの研究者数に直すと世界一になるそうです。これに対して、大学教官の数は、平成12年で、17万人いるそうです。これから企業で研究に従事している人間の数が、大学教官の数倍はいるということがわかります。

私自身が工学系所属の人間であることもあり、製造業にのみ注目して申し訳ないのですが、平成13年度に理学系、工学系、農学系、保健分野の卒業者で製造業に就職した人間の数は、合計で44,768人(学士:24,490人、修士:19,310人、博士:968人)。それに対して、博士終了時点で教員(ほとんどが大学教員ですが)になった人間の数は、1,498人となっています。製造業についた人の全員が研究者になるわけではないのでしょうけれど、新規に大学教官になる場合に比べて、製造業での採用人数が大学教官の採用人数に対して圧倒的に多いことがわかります。これだけ採用が多いのであれば、博士やポスドクにも入り込む余地があってもいいんじゃないかなと思っていますし、博士やポスドクの方々が製造業に目を向けてもいいと思うし、製造業の人たちも、博士やポスドクに目を向けてもよいのではないかと考えております。

ただ実際はそのようにはなっていないようです。今回のテーマは、企業における研究者を増やすことに対する意欲です。はじめに、文部科学省の「平成14年度・民間企業の研究活動に関する調査報告」より、業種別の研究者の増減の見込みについてアンケートをとった結果を示します。

図1 企業における平成14年度に対しての平成15年度の研究者の増減の見込み

平成14年度・民間企業の研究活動に関する調査報告


この図でグラフ中に記されている数字は、回答社数になります。回答全体で、約2割の企業、製造業でも2割を少し超える程度の会社が、研究者が増加する見込みだとこたえております。このアンケートはそれぞれの業界の状況を必ずしも網羅しているわけではないとは思いますが、傾向としては、医薬・化学関係、電子部品・デバイス関係、自動車関係、精密機械関係が比較的研究者を増やすのに熱心なようです。では、これらの企業の中で博士の増減に対しては、どのような傾向があるのでしょうか?以下に図を示します。

図2 企業における平成14年度に対しての平成15年度の博士号取得者の増減の見込み

平成14年度・民間企業の研究活動に関する調査報告


図1において、研究者を増やすと答えた企業が、回答者全体で2割程度あったにもかかわらず、こちらでは1割程度と減少してしまい、やや低調気味です。また、医薬・化学業界では、比較的、博士号取得者が増えると答えている企業の割合が図1とあまり変化がないのに対して、図1において、研究者を増やすことに比較的熱心だった、電子部品・デバイス関係、自動車、精密機械において、博士号取得者が増加すると回答している企業数が減少しています。博士号取得者に対しての業種ごとの扱いの違いが現れているように感じられます。

博士号の有無は、企業においては、研究者を増やす上で、まったく考慮に入れていないことが伝わってくる結果ですが、そもそも企業はなぜ、研究者を増加させようとするのでしょうか?次に、企業が研究者を増やす理由を、図1において、増加の見込みと答えた企業に対してアンケートをとった結果を示します。また、図1において、「ほぼ変化しない」と答えた企業に対しても、アンケートをとった結果があり、それについても少し考えさせられるものがあったため、同時に以下に示します。

図3 図1において、「増加の見込み」と回答した企業の「増加の見込み」の理由

平成14年度・民間企業の研究活動に関する調査報告


図4 図1において、「ほぼ変化なし」と回答した企業の「ほぼ変化なし」の理由

平成14年度・民間企業の研究活動に関する調査報告


図3、図4ともに、選択可能回答数は二つとなっており、図3においては、回答企業数が246社で、一社あたりの平均回答数が1.69、図4においては、回答企業数が654社で、一社あたりの有効回答数が、1.35となっています。

はじめに図3から見ていきます。増加の理由として主に挙げられているのは、「研究開発の重要性の上昇」、「研究開発を実施する分野の拡大」そして「特定分野の研究量の増加」の3点です。「研究開発を実施する分野の拡大」となると、企業がこれまでやってきたことと毛色の違うことにも挑戦してみようかということの現れでしょうし、「特定分野の研究量の増加」となると、既存の研究分野でより大量の研究員を動員しようということなのでしょう。そして、研究開発の重要性の上昇というのは、他の二つの意味を含有していそうです。いずれにしても、研究者が足りないから増やすという当たり前のことは見えてくると思います。

また、図4については、経済的な理由で無理であったり、増減の必要がないと答えているのは仕方がないことと思われますが、「増やしたいが、人材の確保が困難なために増やせない」というのは、少し気にとめておいてもよいのではないかと思います。

では、研究者が不足しているとき、企業はどのように対応しているのでしょうか?以下に、そのときの対応方法についてアンケートをとった結果を記します。

図5 研究者が不足している場合の企業の対応策

平成14年度・民間企業の研究活動に関する調査報告


中途採用、研究委託・共同研究、現有の研究者の活用、そしてその分野の新卒採用が、もっともポピュラーな対応策のようです。「関連分野の新卒者の採用」というものも入れたら、新卒者の採用で対応するという割合がもっとも多いものになることがわかります。

博士やポスドクに限ったことではないと思うのですが、企業への就職を考える場合は、自分がどんなところで働きたいかというのも大事なことなのですが、自分の売りは何か、そして自分を買ってくれそうなところはどこかということをしっかりと調べるとよいのではないかと考えます。どうやら、研究者を増やそうとしている企業はたくさんありそうです。でも、ただ増やしたいのではなくて、自分のところで考えている研究テーマをやってくれる人間を増やしたいと考えています。ただ、たとえば家電メーカーだから、電気や機械や材料関係の知識を持っている人が必要というわけではなく、化学をやってきた人が必要となる場合もあるでしょうし、生物関係の研究をやってきた人が必要という場合もあると思います。中途採用の場合は、転職情報誌や転職サイトに比較的細かく応募条件が載っていますが、新卒採用では、応募条件で細かいところまで求めているところはあまりないように思えます。博士新卒で就職活動に臨む場合は、企業がどのような方向に研究開発を展開していこうとしているのか(企業のホームページ、パンフレット、会社四季報、その会社の有価証券報告書などが資料としては役に立つと思います。)、ある程度見極めた上で、自分をそれに当てはめることができるのか、自分をそれに当てはめてもいいのかを考えることが必要となると思います。新卒採用で研究員の増加を図ろうというところは図5からもまだ多いようですし、対応さえ誤らなければ、なんとかなるものではないかと考えています。

ポスドクの方の場合は、企業への転進を図る場合は、中途採用をとることになると思うのですが、具体的にはどのような手段があるのでしょうか?なんらかのコネクションの利用、転職サイト・人材紹介会社の仲介といった方法があると思うのですが、元の指導教官の紹介で企業に就職された方の話は聞いたことがあるのですが、その他のルートで企業に就職された方の話というのを聞いたことがありません。もしもあれば、どうか教えてはもらえないでしょうか?よろしくお願いします。

学士、修士の新卒の学生の場合は、「新卒採用」という一種の社会制度がまだ存在していますし、それを支えるシステムとして学校推薦や大学の就職課といった昔ながらのものや、リクナビなどの新卒向けの就職情報サイトがたくさんあります。また、博士の場合も、現在のところ、大学の支援は薄いですが、新卒であれば、学士や修士と同じようにリクナビ等を利用することが可能です。しかし、ポスドクやオーバードクターの方には、そのような仕組みがまだ存在していないように思います。コネクションの利用が制度といえば制度ともいえるのかもしれませんが、コネクションを利用するだけでは対応できなくなってきているのがいまの現状であると思います。図4で、企業が研究者を増やさない理由について、「増やしたいが、人材の確保が困難なため増やせない」と答えているところがありますが、この回答の中には、どこに欲しい人がいるのかわからないということも含まれていると思います。また、ポスドクやオーバードクターの方々にとっても、どこに自分を欲しがっている人がいるのかわからないといった状況なのではないでしょうか?このような双方の需要がみたされるようなもう一つのシステムが生まれたらと思います。

今回は、企業の研究者の増加についてと、その理由について見てきました。理由は、研究者が不足しているからということだったのですが、その研究者が不足しているとはいったいどのようなことなのか、もう少し詳しく見ていきたいと思います。




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