第24回:博士に行って何を高めるか?


少し間が空いてしまいましたが、前回は、博士課程修了予定者の採用にあたっての企業側の意識について記しました。今回は、企業が博士に限らず、研究者を採用するに当って、どのようなことを期待しているかを考えていきたいと思います。

まずは、以下の図を見ていただきたいと思います。

図1 博士課程修了の研究者・ポストドクターに対して期待する能力・実績

平成14年度・民間企業の研究活動に関する調査報告


この図は、博士課程の学生やポストドクターを研究者として採用した企業が、学部卒業の研究者や修士課程修了の研究者に対して、彼らにどのような能力や実績を期待していたのかを示したものです。企業の選択可能数は2項目となっています。

この図から、企業が、博士課程の学生やポスドクに対して、「専門分野の知識・技術や経験」をもっとも求めていることがわかります。この項目に比べたら、他の項目が枝葉末葉のことのように感じられてしまいます。つまり専門性を求めているということになると思うのですが、どの程度の専門性を求めているのかというとおそらく企業や事業部門によって、かなりの差があるのではないかと感じています。たとえば、私の場合は、来年度からは化学メーカの電気系の研究者ということになるのですが、化学メーカーの場合ですと、一般的に化学系の学生さんしか興味を示さないので、仮に電気関係の研究をしてきた学生が欲しいと思ったとしても、なかなかそのようなことを学んだ学生にめぐり合えなかったりします。これは、コマーシャルをやっているような大手のメーカーでも同じことであると思います。そうなると、多少自分たちが望んでいる専門分野からずれていたとしても、応募したきた本人にそのずれを埋めるだけの意欲があれば、まあ、採用しようかということになるのではないかと思います。本当に、メーカーが自分たちが必要としている知識をもっている人材を欲しいと思っていたら、学会発表の会場にでも出向いて、自分たちにぴったりの発表をしている学生をスカウトするくらいのことをやらないと難しいかもしれないと感じています。実際に博士の学生さんの場合は、そのような形で企業の方々と親密な関係を築いていって、採用されている人もいらっしゃるみたいです。しかし、少なくても、そういった親密な関係がないところの募集に応じる場合は、あまり狭い意味での専門性を気にはされないように感じます。もちろん、応募した企業の事業分野と自分の研究がどのようにマッチングしているのかマッチングさせることが可能なのかを主張くらいはできないといけないとは思いますけれど。

このように博士課程の学生さんやポスドクの方々にはある程度の専門性が求められているわけですが、専門性以前に、求められている資質があることを示しておかないといけない考えております。それを次の図に示します。

図2 研究者に期待する資質(研究者一般に関して)

平成14年度・民間企業の研究活動に関する調査報告


図2は、企業が自分のところの平の研究者に求める資質としてどのようなものを期待しているかについて、アンケートに応えたもので各企業の選択可能数4、有効回答企業数1044、平均回答数3.91となっています。

この結果から、企業が、「深い専門分野の知識・技術」を6割程度も挙げていることからかなり重要視していることがわかりますが、それ以上に、「粘り強さ・達成意欲」「発想の柔軟性」という事柄を重視している企業が多いことがわかります。つまり、いくら専門分野の知識や技術があったとしても、それを形あるものにまとめるだけの意欲が持続しないと意味がないでしょうし、何か壁にぶつかってしまったときに、それを打開するだけの思考のやわらかさや粘り強さのようなものをもっていてほしいということなのでしょう。博士課程の学生さんやポスドクの方々に対しては、当然、このような資質があるとした上で図1のようなある程度の専門性を求めているのだろうと考えたいと思います。

ちなみに、この図2で企業が求めている「粘り強さ・達成意欲」「発想の柔軟性」というのは、新卒の学生にはもっとも足りない資質とみなされているようです。図3をいかに示します。

図3 研究者のリソースとしての大学および大学院に何を望むか

平成14年度・民間企業の研究活動に関する調査報告


図3は、企業が、人材の供給源として、大学や大学院にどのようなことを望んでいるのかを示しています。こちらは、有効回答数1039で、選択可能回答数が4、各企業の回答数の平均が3.29となっています。

この図から74.5%もの企業が、知識を与えるよりも、考える力をつけさせろと答えていることがわかります。「考える力」がなければ、粘り強く仕事に取り組むことができず、困難な仕事を前にして途中で投げ出してしまったり、自分ではどうしようもなくなって、思考停止に陥り、誰かに何か言われるまで仕事を抱え込んでしまったりということになりかねません。結局のところ「考える力」というのは、「発想の柔軟性」とか「粘り強さ・達成意欲」というところにつながってきていると感じております。

最近、私の所属している専攻で修士課程の学生を対象とした就職と進学に関する説明会がありました。私も事情があって、その説明会を聞くことになったのですが、就職活動に関しての説明会というよりはどちらかというと博士課程への進学を勧めるセミナーになっておりました。その中で、セミナーを担当されていた先生やポスドクの方が強調していたのは、博士に進学すると自分で考える力が身につくぞというものでした。確かに、企業が、図3に示すように、大学院に対して、学生に考える力をつけさせることを望んでいる中では、博士課程において、自分で考え、自分で研究を遂行していく能力を身につけていくのはめでたく就職した暁には、大きな利点になるのではないかと思いました。ただし、もちろん、修士課程においても、意識の高い学生さんであれば、自分で考えて研究を遂行していっているので、できるだけ早い段階で、高い意欲をもって研究に望んでもらえたらなと私は思っています。

博士に行く人も行かない人も、現在、博士課程に在籍している人もポスドクの人も自分の能力を高めるために一日一日を無駄にせず過ごしてもらえたらなと思います。



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