第22回:博士課程に進むことの経済的メリット


先週、「雑感」において、育英会の借金の返済のことで鬱になっていると書きました。博士課程に進むということは、育英会の借金に博士課程への在学期間に働いていたら手に入ったであろう収入が手に入らないという機会損失をこうむるということです。少なくても日本においては博士課程に進学するということに対してなんらの経済的メリットがなく、むしろデメリットの方が多いということは、多くの方が感覚的にわかっていることだとは思いますが、一応、社会では、というか会社において博士の価値がどの程度に考えられているのか示すデータがあります。

平成15年度版の科学技術白書に、取得学位による初任給の差について企業がどのように取り扱っているのかアンケート調査をした結果が載っています。その結果は図1のようになります。

図1 取得学位による初任給の差


この図を見ると、意外に博士を優遇している会社が多いのに驚きます。もちろん優遇といっても、月給にして数万円高いという感じで、劇的に違うというわけではないとは思います。しかし、先に就職した友人の話を聞いていると、この3年間で全く昇給がなかったということもあるようですし、初任給でも何万円か色をつけてもらえるというのはとてもありがたいことです。メリットがあるかどうかということは、やはり学位をとったということが昇進や昇給とどのような関係があるのかということにつきると思います。それで、企業における40歳前後の研究者間の昇進・昇格の差が何によってついているのかというアンケートもおこなわれています。こちらも科学技術白書に載っている内容なのですが、グラフのみで詳細な数字がわからないので、傾向だけざっとお話しようと思います。修士号や博士号の有無が影響していると応えたところは本当に数%程度であることがわかります。また、一番影響しているのは、業績や能力を反映した人事考課であり、次に影響しているのは経験年数であるようです。結局は学位は関係なく、本人の実力とそのときどきの運不運が大きく影響してきているということなのでしょう。会社にもよるとは思うのですが、経験年数ということについて、博士課程の3年間も経験年数として勘案してくれるところもあるようです。たとえば、修士卒の場合に平均的に入社から5年間で技師に昇格する会社であれば、博士卒の場合は、入社から2年で技師に昇格させるといった具合です。博士課程の3年間ということに対してそれなりに敬意を表してもらっている例かもしれません。

それから科学技術白書では、博士課程に進学することによる機会損失についても試算をしてくれています。それによると修士卒の初任給の平均が21万6287円で、賞与の平均が4.68ヶ月であるそうです。そしてそれを3年分もらったと仮定して計算をすると1082万円となります。これが機会損失になります。また、この3年間の授業料、生活費が育英会の借金と同額だと考えると400万円になります(授業料はこの中に含まれるとする)。すると合わせて約1500万円の損失をこうむっていることになります。博士号というのは本当に高い買い物です。計算をしてみてこの3年間はなんだったのだろうと悲しくなってきます。

給料については、学位による差異よりも、このごろだと会社間の差異の方が大きいかもしれません。業界によっても好不況がありますし、国内企業と外資系企業ということでも違ってくるでしょう。私も一発逆転を狙って、外資の石油探査会社(月給36万円、賞与6ヶ月)に就職しようと考えたこともあります。なんでもロシアとかアラブとかに派遣されて現地で探査業務をするらしいのですが、脱落者がたくさんでるくらいにしんどいかわりに、給料の上がり方も半端ではないようで、1億があっという間にたまってしまうとのことでした。残念ながら、私が応募しようとした年は、探査業務の募集がなかったので、あきらめたのですが、高い給料をもらおうと思ったら、それなりに過酷なことをするかもしくはそれなりに業績をあげないといけないということなのでしょう。

博士課程に進んでしまうと3年間という時間のロスに加えて、1500万円という金額のロスがともなうので、修士卒との差を埋めようと思ったら、おそらく普通にサラリーマンをしていてはいけないのでしょう。企業へ行くのなら、できるだけ給料の高い会社に行くか、何かお金になる発明をして報奨金を稼ぐか、普通以上に出世するかしないといけないでしょう。もしくは独立開業も視野に入れてキャリアを積んでいくことも考えないといけないかもしれません。なんにしても、3年という時間と1500万円という金額は人生にとってとても大きいものだと考えないといけないですね。博士課程は適当な気持ちで進んではいけないなとつくづく感じつつ、大いに反省をしております。ただ反省していても仕方がないので、私はこのロスを取り戻そうとテンションはあげております。からまわりをしなければいいんですけれどね。みなさん、がんばりましょう。

追加:2003.11.15

上記の博士課程に進学することによる損失の試算に関してですが、育英会の借金を損失に加えるのはおかしいのではないかというご指摘をいただきました。確かに育英会の借金を損失に加えるのはおかしいですよね。すみません。損失としては、修士課程を卒業してすぐに働いていたら得られたであろう給料3年分1082万円に、授業料3年分約150万円(年間50万円として)の合計約1230万円というところでしょうか?

ご指摘どうもありがとうございます。



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