第21回:博士課程修了者・ポスドクに関しての企業の意識


以前も書いたのですが、私は新聞や求人雑誌を見るのがもはや習慣化してしまっています。常日頃、思うのは博士課程の修了者やポスドクを対象としたような研究開発職はほとんどないなということです。新聞の広告に踊らされて今週発売された「B-ing関西版10/8号」(リクルートの転職情報誌の一種です)を買ってしまったのですが、やはり研究開発職というのは少ないですね。「B-ing関西版」はだいたい1ページに一求人という感じで求人広告が掲載されているのですが、300ページほどある雑誌のうち、技術系職種に分類されているもののページ数は、10ページほどとなっています。しかも、募集職種もソフトウェア関連とかCADオペレータとか機械工などの、少し博士修了者とは縁のないような広告が主でした。掲載されている広告の大半は営業職ですね。博士課程修了者、ポスドクも視野に入れてくれいる広告はたった一つでした。それはソニーの広告で、リチウム電池の開発者を募集中というもので、「応募資格」の中に「大学の研究室出身の方も可」と明示されておりました(こちらはリクナビネクストの方にも求人が出ておりましたので、興味のある方は一度見てみたらいかがでしょうか?)。あと、あるいはポスドクの方もいけるかなというのが2件ほどありました(三洋電機と松下電器の広告です)。また、リクナビネクストなどの求人サイトも最近は見なくなりましたが、B-ingと何か違うかなと思って、少し覗いて見ました。求人情報自体は3500件ほどあるのですが、技術職は、このうちの1600件(ソフトウェア・ネットワーク系590件、電機・電子・機械655件、素材・食品。メディカル165件、建築・土木138件)程度です。結構多いと思うかもしれませんが、必ずしも博士課程修了者ができるような研究職ではなくて、生産管理とか、金型工とかCADオペレータといった大学院ではつめない経験や技能を必要とする求人が主流となっています。博士課程の人やポスドクの人が応募できる職は全体のせいぜい10%もないかもしれません。文系の院生の方に関しては、専門学校や予備校などの教育機関は、あまり学歴にはこだわらないようです。求人案内を見ていると「大学院出身者の方も歓迎」と書いてあるものの見かけます。手元に所有している資料が研究開発に関するものしかないため、しばらく、理工系の話になってしまいますが、お許しください。

博士課程既卒者・ポスドクの方は、転職市場で職を探す場合、極めて苦しい就職活動を行うことになる気がしますが、実際、企業は博士課程修了者やポスドクの採用に関してどのような意識をもっているのでしょうか?少し古い資料なので、少し状況は好転しているかもしれませんが、手元に「平成10年度・民間企業の研究活動に関する調査報告」(科学技術庁)の一部抜粋したもがあります。その中に「民間企業における博士課程修了者・ポスドクの採用実績」というデータがあります。以下に博士課程新卒、ポスドクの採用について、アンケートに答えた企業の実績はどうなのか示したいと思います。アンケートに答えている企業の数は1052社となっています。

図1 博士課程修了者の採用実績(H10)


図2 ポスドクの採用実績(H10)


「採用する年もある」と答えている企業までを博士課程の学生やポスドクを採用する積極的な意欲をもっている会社と考えると、博士課程の学生に関しては、全体で4割くらいの会社が一応の意欲は見せていると考えることができます。また、資本金の大きな大会社の場合だと、恒常的に博士課程の学生を採用しているケースが多いようです。大きい会社の場合だと、それなりに長く組織的に研究開発を行ってきており、博士課程の学生の扱いにも慣れているということでしょうし、どちらかというと大学に近いような基礎的な研究もある程度はおこなっているということなのかもしれません。しかし、どうやらポスドクとなるとかなり扱いが異なってくるようです。図2から、全体だとおよそ1割くらいの会社がポスドクの採用も一応は考えているようです。資本金の大きな会社だと、採用している割合も増えていきいますが、大手企業であれば、国の研究所や大学との関りも深そうですし、そういった縁で会社へ移籍しているという感じなのかもしれません。詳細はわかりません。いずれにしても、アンケートに回答した7割もの会社に実績がないという事実をどのように受け止めたらよいのでしょうか?次に、手元に「平成12年度・民間企業の研究活動に関する調査報告」の中の「最近3年間に採用を行っていない企業による博士課程修了の研究者・ポストドクター採用の問題点」というアンケート結果(回答企業数629社)がありますので、以下に示します。

図3 過去3年間に採用を行っていない企業による博士課程修了の研究者、ポスドク採用の問題点(H12)


この図3より、問題点はおおよそ3点に大別できると思われます。一つは企業側の必要性の問題、二つ目は博士課程修了者やポスドクの資質に関する問題、そしてもう一つが企業と博士課程修了者やポスドクをつなぐためのパイプの問題です。まずは、博士課程修了者やポストドクターの資質に関する問題として、「特定の研究分野や基礎研究に偏向しており、それ以外の分野に対処しようとする意思に欠ける」というのが13.2%という結構な割合になっています。また、「研究方針・研究の進め方などが従来の研究者と異なる」ということや、「計画性・コスト意識・時間意識などの企業経営に対する意識に問題がある」といったものがあげられています。このような研究者個人の資質に関する問題については、各個々人や各大学で対応してもらうほかないと思われます。なんにしてもこれがあまり大きな割合でないのが幸いです。

そして企業と博士課程修了・ポスドクをつなぐパイプの欠如に関しては、「希望する分野の研究者がこれまでいなかった」「採用を希望しているが、博士課程修了者やポスドク個人に関する情報が少なく、どのような研究者が就職を希望しているのかわからない」「採用を希望しているが、博士課程修了者やポスドクをどのように採用していいのかわからない」といったものがあげられます。現在、ポスドクや博士課程修了者に関しては、人づての紹介以外に、二つの求職手段があると思われます。一つは通常の求職活動(リクナビなどの新卒採用に応じる、リクナビネクストなどの中途採用に応じる)と研究者人材データベースなどの大学・研究機関の公募に応じるという方法です。第3の柱として、企業と研究者をつなげるようなデータベースもしくは人材紹介のような仕組みが作れたら、よいのではないかと考えます。これは、一つ目にあげた企業側の必要性の問題にもからんでおりまして、企業は博士を必要とするような高度が研究開発をしていないといっても、新しく人材を紹介することにより、より高度な研究をおこなうことにで、新しく市場を開拓するということも可能性を示すということもできるかもしれませんし、人の移動により、研究機関から企業への技術移転というものもサポートできるのではないかと思います。10月2日の日経の記事で伊藤忠商事が産業技術総合研究所の技術を中小企業に移転する手伝いをするという記事が載っておりました。なんでもこれまでは、産総研は、大企業とは共同研究などのパイプをもっていたが、中小とはパイプをもっていなかったので、それの手助けを伊藤忠商事にしてもらうということだそうです。10月1日付けでいくつかの国の研究機関が独立行政法人に移行しましたが、財源の確保と存在意義の確保のために、企業との連携をどこも確保していきたいようです。このような技術移転の流れの中で、人材の移転も進んでいくのではないでしょうか?産官学連携の流れの中で、人材の流動化が大学外にも及んでくれることを期待しています。



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