色々なあり方を模索しながら

名前:Sさん 

所属:国立大学博士課程在籍中(関西)・民間企業内定

2008年4月5日


私は幼い頃から研究者や博士や教師といった知的な営みに携わる立場の人間に憧れを抱いておりまして、自らも何らかの形で知的な営みに関わることで社会貢献できればと思っておりました。知的活動を二つに大別すると、教育者と研究者に分けられるのではないかと考えました。前者は既知の内容を分かり易く多くの者に普及させる活動を主とし(学校の教職員がそれに当たると思います)、後者は未知の内容を試行錯誤しながら解明していく活動を主としています。いずれの立場も非常に魅力的でありましたが、いずれか一つを選択しようとすると自分の中では未知なるモノを解明していくという研究者を目指してみたいという願いがあり大学院博士課程まで進学して今に至っています。

大学院に進学して進級するに従って当然、修了後の自分の身の振り方を現実的に考えていく必要が出てきました。無謀な大学院重点化とポスドク一万人計画により、無事に学位が取得できても碌に就職できていない(アカデミックであれ企業であれ正規雇用として)者が溢れている現実を目の当たりにしました。大学・大学院側はそのような現実に真正面から目を向けようとはしません。21世紀COEやグローバルCOEのプロジェクトに採用されてスタッフ側は喜んではいても、学生にとっては経済的な援助が加わっただけであって、実際は特任助教や特任研究員という名のポスドクを創出しているだけでした。また外部評価書なるものを、外部スタッフが研究科やプロジェクト全体の総括的評価を数年毎に行うわけですが、生物系博士課程学生の就職難という現実があることも露知らないのか、「修士課程で卒業してしまう学生が多いので、何とか博士課程まで進学して社会に出て羽ばたいて欲しい」という綺麗事を羅列しています。

化学系や機械・電子系などは博士であろうが、修士であろうが就職難は耳にしません。むしろ余っているらしいとのことです(同じ大学の他学部・他研究科に在籍している友人談)。しかし、生物系において博士は勿論ですが、修士であっても就職難です。需要と供給のバランスが全く取れていないのです(今に始まったわけではないですが)。また企業側の博士忌避、あるいは博士を採用する場合は求めるものが高すぎる傾向にあります。さらに、薬学系のコネクションが横行しており、製薬業界研究職はコネのみと言っても過言ではないです。勿論、誤解のないように断っておきますが、自由応募で採用される方も居ますが本当に少ないです。製薬大手のT社では昨年度入社80人のうち2人のみが自由応募であったらしいです。

生物系研究職の採用枠の少なさ、コネの横行(製薬業界中心)、博士の忌避という劣悪な状況が自分の周りにはあるのだ、と強く認識しました。アカデミック常勤職は皆無に等しく、任期付研究員の文字が「実験医学」やネット掲示板に躍るばかりでした。また、アカデミックでサバイバルするのは自分としては任期付というポストは厳しいと感じておりました。ですが、営利を目的としない学問的な基礎研究はやはり大学などの公的研究機関で行っている点は、非常に魅力的でもありました。

こうした状況の中で、今後の人生で自分の生き方を考えた時に、知的な営みに関わりたいという軸は変えずに色々を可能性・選択肢の幅を広げていきました。先述の二つに大別していた一方の教師というあり方も考えて、博士課程に進学してから実験を犠牲にしながらも学部一年生に混じりながらも教職課程を履修し始め、昨年は母校で教育実習も行いました。幸い、自分に向いていたのか教育実習は非常に有意義でしたし、教職課程科目は魅力的でした。博士課程という研究現場を少しばかりでも垣間見た者が教職に携わる人間として社会に出ることも、一つじゃないかと考えるようになりました。また、科学技術立国を標榜しつつも、現場にいる学生や研究者にとって真に良い環境を提供すべく、文部科学省官僚として研究教育のフィールドを改善していく立場の人間としても成れることができれば、良いのではないかと思うこともありました。あるいは、論理的な思考を活かしたシンクタンクの研究員として、そして生物系企業(製薬、化学、繊維、食品など)での生物系研究職という選択肢を広げていました。それらの選択肢の中で順位を付けると、@メーカー生物系研究職A公立学校での教育職員Bシンクタンク研究員C文部科学省官僚・・・というようになっていました。

順位を付けていた@とAは共に、同じくらいの優先順位でありました。そのため、博士2年の秋の11月から製薬業界からスタートを切る就職活動も始めると共に、教職採用試験に向けての勉強会にも参加するようになりました(週1回)。幸い、私が参加していた教職採用試験勉強会は大学で実際に教職科目の講義をされている先生がボランティアで開催されているもので、毎年合格率が80%以上という素晴らしい内容の勉強会でした。週一回開催される教職採用試験勉強会に参加して、集団討論や面接の練習・教職教養を深めることもしながら、エントリーシートを書いて生物系研究職・開発職へのエントリーをしていました。上記のような博士の圧倒的な不利な状況であっても、やらなければ何も始まりませんのでエントリーシートを書いては提出して、書いては提出という作業を繰り返していました。数社から書類選考通過後の面接に呼ばれました。そうしている間に、年末になり面接で東京に行くことも多くなりました。大手トイレッタリー会社Kから最終選考に呼ばれました。私が呼ばれた最終選考に来ていた人は皆博士課程の院生でした(恐らく、修士と博士と分けているのでしょう。この会社では博士も修士や学士の新卒と同じように選考するとホームページでも謡っていました)。最終選考は60分の面接で、半ば圧迫面接でした。意地悪な質問もあり、博士を本当に採用する気があるのかな?と思ってしまいました。結果的に、この会社は最終選考で脱落してしまいましたが、ポジティブに考えて「あの大手トイレッタリー会社Kの生物系研究職の最終選考にまで呼ばれたのだから、少しくらい自信を持っても良いのではないか?」と思いました。

年が明けて、2月に至るまで化学メーカーおよび食品メーカーの生物系研究職へのエントリーを続け、毎日のように面接に行く日々が続きました。同時に年明けてから、この時期に決めないといけないという焦りもありました。場数をこなしているせいか、面接を受験すると合格したか否かは感覚でわかるようになってきましたし、実際感覚の通りでした。もともと博士を採用していない大手化学メーカーにも、こそっとダメもとでエントリーシートを提出すると、意外にも最終選考にまで進むこともできたりしました。選考が進むに連れて、どの会社も次回選考の案内が電話になるのですが、最終選考への案内電話も慣れてくるようになりました。贅沢な話ですが、内定の電話を心から欲しており、最終選考への案内電話は慣れて嬉しいとまでは言えませんでした。厳しい話、どれだけ最終選考へ進めても内定を頂かないと意味がないので、そう思っていました。結局最終選考まで進んだのは大手トイレッタリー会社1社、大手化学メーカー5社、大手食料品メーカー1社の計7社で、内定を頂いたのは大手食料品メーカーY社(乳酸菌飲料トップ)と大手化学メーカーN社(油脂関係に強みがあります)の2社から頂き、2社から最終選考結果待ち、3社は最終選考で脱落してしまいました(3社のうち1社は博士はもともと採用していないとのことで、ある意味脱落して当然だったかもしれませんが)。個人的には第一志望の(コテコテの生物系研究をさせて頂き医薬、食品、化粧品の基礎研究も手掛けることができる)Y社から内定を頂きましたので、嬉しい限りでして、入社の意志を伝えました。

最終選考を受験した会社の人事部が異口同音に「生物系研究職の内定を取るのは甲子園に出るよりも難しいし、実際に数百倍の高倍率です」と言っていました。実際に就職活動している自分も、その厳しさは肌で感じることはできました。Aの教師であれ研究者であれ、いずれも非常に意義深く、そして魅力的であり知を探求する立場の人間であります。いずれの立場としてのあり方を模索しておりましたが、こうして縁あって課程修了後においても研究者としてのご縁を頂いたこともあり、研究のフィールドにおける自分への挑戦するチャンスを頂けたということでもありますので、内定先の研究者としての道を歩むことに決めた次第でございます。また、現実問題として会社に入社してキャリアを積んで教師に転向することは可能ですが、逆は特に研究職の場合は無理でもあります。

Bについてはエントリーして説明会への出席や、筆記試験の受験も同時に行っておりましたし、Cについては修士卒の友人で農林水産省の官僚をしている者や過去に国家公務員試験I種に合格したが蹴った者がいましたので、彼らから直接情報を仕入れていました。

自分の体験談として就職活動について言えることとして、

一、エントリーシートは最終面接まで使用されるので入念に書き込み、自らの意志を分かり易く熱く書くことが大事だと思います。これに最も時間を費やしました。

一、世に多くの就職活動の虎の巻のようなものが出回っているが、全く参考になりません。実際に参考にしたのは、内定の断り方のみです。

一、大学院生に多く見られるのですが、自分の専攻分野の仕事しかしたくないという狭い視野は止めて広い視野を持つべきであると思います。もっと言えば、大量に存在している生物系大学院生(博士も修士も)に比べて、それらを受け入れる生物系研究職や開発職は圧倒的に少ないという現実がありますので、視野を広く持って自らの身の振り方を多面的に考えることは必須と思われます。

一、場数をこなせば慣れてきますから、あきらめずに戦うことが大事だと思います。

えらく長々と書かせて頂きましたが、この自身の体験などが何かしら有益になれば幸いです。2009年4月の就職までに博士号学位を取得できるよう頑張りたいと思います。結果的に良かったということもあるからかもしれませんが、就職活動は色んな意味で勉強になりました。

生物系博士・修士大学院生の過多、オーバードクター、ポスドク問題は非常に根深いもので、社会的なシステムを構造的に変えないと改善されないのではないかと思います。大学大学院・研究機関側にも大いに問題があるので、今後この問題が徐々にでも改善されるように願い、自らが出来ることがあれば積極的に意見交換や提言でもできれば嬉しく思います。一介の大学院生が、偉そうに述べてしまいましたが、よろしくお願い申し上げます。

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