博士課程修了後、学士入学を経て、電機メーカー就職

名前:Mさん 

所属:電機メーカー


大学での13年間の学生生活を経て、就職するまでの少し長い道のりをご紹介させていただきます。

私は地方大学の農学部の所属だったため、周りに大学院に進学する人が少なく大学院に行くことは、全く考えていませんでした。地元に戻り、会社に就職するつもりで、就職活動をしました。地元の企業からいくつか内定をもらい、教授に報告しました。数日後、私が熱心に研究に取り組む姿を見てか、単に労働力を欲してかわかりませんが「大学院の試験の二次募集あがるから受けてみないか」と言われました。試験対策も何もしていないし、受かるとは思っていなかったのですが合格し、就職するのをやめて修士課程に進学することになりました。私はもともと、大学を出て就職するという多くの人が歩む道に疑問を感じていました。修士課程に進学してからは、他人とは違う人生を歩みたいという考えが強くなりました。大学生の時、農学部という学部が認知されていない地元で就職活動をして、嫌なことを言われたり、雑な扱いを受けたりしたこともあり、もう二度と就職活動はしたくないという気持ちがあったので、修士課程では就職活動は一切やりませんでした。成り行きで、博士課程に進学することになりました。

このころから自分の研究に疑問を持つようになりました。何度か中退することを考えました。しかし、周りの期待に背きたくないという気持ちから、だらだらと続けました。博士号を取れば、それ相応の仕事もあるのではないかという甘い考えも少しはありました。在学中に民間の就職活動は一切しませんでしたが、助手、任期付き研究員、学術振興会特別研究員などに応募しました。結局、すべて不採用でした。学部時代の指導教官は、研究所での非常勤研究員の仕事を用意していましたが、先のことを考えると、このままだらだらと就職できないまま歳をとっていくことに不安を感じたので別の道を考えました。ここで、思いついたのが学歴を変えることです。就職しにくいという理由の一つに自分の専門が特殊で社会で認知されていないということがありました。そこで、学歴を変えて就職するときの職の幅を広げるということを考えました。大学に進学してから就職活動するまでは全く意識していなかったことですが、その後、理系で就職する上で工学部卒という学歴は絶対的に有利であるということを強く感じるようになりました。たしかに、農学部というと最近は遺伝子工学の分野のおかげで知名度は上がっていますが、個々の専門を見ていくと就職という観点では明らかに不利です。私の分野は農業工学から派生した専門だったため、就職にしても工学部と競合することが多く、その都度、工学部卒の人材の優位性を認めざるをえないことがありました。「学歴が不利ならば、学歴を変えればよい」という考えを思いつきました。私は自分の研究に疑問を感じてはいたものの、大学生活というものが好きだったので、このまま大学生活を終えてしまうことに強く未練を感じていました。単に学歴を変えたという気持ち以外にも、大学に所属し続けて大学生活を続けたいという気持ちもありました。

自分の専門と関連があり、興味もあった電気電子情報系の学科に入学することにしました。大学院に入学するか学部に入学するか迷ったのですが、「基礎なくして応用はない」という考えに基づき、学部に入学することにしました。短期間で猛勉強をした結果、運よく希望通りの大学の電気系学科の二部に学士入学することになりました。試験に受かり、入学するのを決めたのはよかったのですが、お金の問題がありました。私は博士課程からは親の援助を一切断ち切り、奨学金、アルバイト等で生計を立てていました。二部を選んだのは学費が半額なのと、昼間に単価の高い技術系や研究補助の仕事をすることができると思ったからです。入学してしばらくは、預貯金でやりくりし、その後は学業と両立できる研究補助や技術補助の仕事を見つけることができました。その後、学部時代の指導教官の紹介で、研究所でプロジェクトの特別研究員の仕事をすることもできました。仕事と学業の両立は思った以上に大変で、寝る時間を削って勉強を続ける毎日でした。最短3年で卒業できるはずでしたが、仕事と学業のバランスを考えて、4年で卒業することにしました。学士入学、すなわち編入学という制度でしたが、教養科目の単位も卒業単位に足りなかったので、実質、1年生から大学に入り直したのとそれほど変わらなかったと思います。

卒業後の就職についてですが、いくつか選択肢を考えました。大きく分けると、@研究経歴を生かし大学・研究機関に就職、A学部新卒で企業に就職、B中途採用で企業に就職です。結果的にはAを選びました。Bの話もいくつかありましたが、職種が自分の希望とかけ離れているので断念しました。@の話もあったようでしたが、動きが遅く、先行きが見えないので、結果が先に出たAになりました。普通の人よりも9年遅れになりますが、普通の会社員として企業に就職するということになりました。一見すると博士課程は無駄だったように思えてしまいますが、博士課程に進学しなければできない多くの経験ができたことを考えると無駄ではなかったと思っています。実際に、大学での研究の進め方は、日常業務の進め方と共通することも多々あり、研究生活で得たことは生かせていると思っています。たしかに、年齢や学歴を考えると給料が安いですが、企業に成果主義が導入された今であれば、経験や能力を生かして取り返すことは不可能ではないと思います。

私は就職に苦労しただけに就職に対する憧れというものが人一倍ありました。形はどうあれ就職できたということに非常に満足しています。しかしながら、就職できたから安泰とは考えていません。重要なのは、個人の所属している組織ではなく、個人の人材価値だと思っています。会社員となった今になっても研究職に対する未練は少しだけ残っています。最近は、企業から大学へという人材が動く傾向があるので、そういう可能性にも目を向けておきたいと思います。これからは、専門分野の技術を身につけ、機会を失わないように、人材価値を上げる努力を続けていくつもりです。



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