「会社四季報」を見てみよう!


一昔前は、「いい大学→いい会社=いい人生」という風に思われていました(今でも、この信仰はなくなっているとは言いがたいですが・・・)。この場合のいい会社というのは、有名で優良で安定した会社ということなのでしょうけれど、「有名」とか「安定」とか「優良」というのはたぶんに根拠のない漠然としたものであったと考えられます。

皆さんは就職先を選ぶとき、どのような基準で選んでいるのでしょうか?よく会社の知名度というのが一つの判断基準になっていると言われています。私の手元に、2004年1月26日の日経新聞の新卒広告特集があるのですが、その一面に、「大学生の就職希望ランキング」が載っています。これを見ると、とりあえず、上位10位はすべて、一般消費者向けに商品やサービスを提供している会社です。上位100位を見ても、商社や広告代理店、少数のメーカー(業者間取引が主なメーカー、凸版印刷とかキーエンスとか)除けば、ほぼすべてが、一般消費者向けの商品開発やサービスの提供をおこなっている会社です。以前、広告費をたくさん計上している会社ほど、就職ランキングで上位にくるという話を読んだことがあります。日本で広告費を一番使っているのがトヨタで、次がサントリーだということを聞いたことがあるのですが、「大学生の就職希望ランキング」を見ると、確かにトヨタが3位、サントリーが2位に来ていたりもします。ちなみにJTBが一位となっています。

つまり何が言いたいかといいますと、会社をイメージだけで選んでいいのかということです。会社の知名度というのはみなさんの行動を規制する大きな要因となると思います。みなさんは会社を調べるときにホームページを見たり、会社のパンフレットを見たり、リクナビで検索をしたりすると思います。しかし、そのように深く調べる会社というのは自分の知っている会社に限られているのではないでしょうか?そして、それは、みなさんの可能性をとても狭めていることになるのではないかと考えています。たとえば、電気系の人間だからといって、○ニーや○下や、富○通、とか○ECとかに入るのが必ずしもよいことだと言えるのでしょうか?毎年、修士課程の人たちが学校推薦で受ける企業の傾向を見ていると、すばらしい経営状態で、研究開発についてもなかなか面白そうなことをやっている会社が知名度がないという点だけで無視され、よく名の通った大企業(かならずしも経営状態がよいとは言えない会社も含まれる)にのみ学生たちが嬉々として群がることを心苦しく感じます。

ここで、みなさんに会社四季報を見てみることを勧めるのは、世の中にはたくさんの会社があるということを知って欲しいということが一つの理由です。会社四季報には上場企業のみが載っているのですが、それだけでも3600社程度にもなります。日本全体の会社数からすればほんのわずかですが、それでも、かなりの数の会社が網羅されています。会社数だけであれば、リクナビやさまざまな就職情報サイトでも網羅されていますが、こういった就職情報サイトでは、会社の実態については、あまり触れられません。触れられるのはせいぜい売上高や従業員数、初任給、採用人数程度のものでしょうか?あとは、会社がどんなことをやっているのかとか、どんな先輩方がどんな面白いことをやっているのかということを示して、できるだけよいイメージを持ってもらうものです。就職情報サイトで得られる会社情報は基本的に学生によいイメージをもってもらうための広告であると考えておけば間違いないと思います。就職はよく結婚にたとえられますが、リクナビなどに流される情報は、いわばベストショットのお見合写真といったところでしょう。

では、会社四季報で示されているものは何なのでしょうか?お見合いでいうところの身上書といったところかもしれません。見合い写真だけで、本人と会うことを決める人はいないと思います。どちらも実際に会うかどうかを決めるのに重要だと思います。多くの人の就職は、まるで見合い写真だけでお見合い相手がどのような状態に置かれているのか、どのような人柄なのか確かめずに会いに言っているのと同じなのではないかと思います。これが会社四季報を見て欲しい二つ目の理由になるのですが、ぜひ、希望の会社の財務状況も確かめて欲しいのです。参考までに、会社四季報から抜粋した記事を以下に示します。最近、花王がある会社の化粧品部門を買い取るという話が新聞紙面をにぎわしているので、花王の情報を例として示したいと思います。

図1 花王の現状

会社四季報・2003年秋季号(東洋経済新報社)


会社四季報は、B5版の本で、一ページに二つの会社の経営状態を簡潔に記しています。図1について、注目しておくべき点を説明していくと、一番右上のところに、「特色」「連結事業」というのがあります。「特色」では、会社の現在の強みやこれからどのような方向に向かおうとしているのか簡潔に記されています。そして「連結事業」では、会社の売上げが、どのような事業によって構成されているのかが記されています。ここを読めば、この会社が何でもうけている会社かがわかります。そして、左側の項目に移ると「順調」とか「海外」とか書いてありますが、ここでは、今期にあった特筆すべきニュースが記されています。

そして、さらに左に移動すると、会社の財務状況が記されています。「総資産」というのは、会社のもっている資産の総計です。現金・預金や不動産や生産設備や、在庫や原料などがこれにあたります。「株主資本」というのは、大雑把にいうと、「総資産」から「負債」を減じた値となります。そして、「株主資本比率」というのは、「株主資本」を「総資産」で除した値となります。なので、この値が大きいほど、借金をあまりしていないということになります。ちなみに、借金をしすぎて、総資産を超えるくらいの借金がある債務超過の場合だと、株主資本比率は、計算不能ということで、「―」であらわされます。「株主資本比率」は値が大きいほど、健全な会社運営がなされていると考えることができます(ただ単に攻めが足りないという場合もあるようですが)。目安としては、この値が40%以上だと安全であると言われています。なので、花王の場合は健全な部類に入りそうです。負債はある程度は許容されますが、あまり多すぎると、首が回らなくなる場合があります。会社も人間と同じで、そのように首が回らなくなった場合は、人間で言うところの自己破産のように、民事再生法とか会社更生法のような法律の手助けを借りて借金の整理をすることがあります。「資本金」とは、会社に投資されたお金のことで、返済しなくてもいいお金です。人間で言えば、一人暮らしをするにあたって、親から自立の資金をもらったようなものでしょうか?利益剰余金というのは、会社が上げた利益の中から、いくらかを社内留保しているお金の蓄積のことです。一種の貯金です。人間が万が一のときのためや、何かでかい買い物をするときに貯金をするように会社も貯金をしています。「有利子負債」とは文字通り、利子をつけて返さないといけないお金のことです。当然、この額が小さいほどよい会社と言えます。

で、その下を見ると、「指標」というのが記されています。「ROE」とは「株主資本利益率」といい、「株主資本」で「利益」を割ったものとなります。つまり、「株主資本」を用いてどれだけの利益を上げたかを示す指標になっています。この値が大きいほど、会社の経営はうまくいっているといわれており、投資家は、多くの配当金を期待できると考えられています。「株主資本」がある程度まともな値であるときに、ROEは10%以上あれば日本の場合は、まあ健全な経営をしていると言われています。「ROA」というのは、「総資産利益率」といい、「利益」を「総資産」で除した値となっています。これは、総資産でどれだけの利益を上げることができたかを示す指標です。これはどれだけ効率的な経営をおこなっているのかを示すことができます。総資産を現金に換えて、銀行に預けた方が、割がいいということだったら、会社の使命が儲けるということだったら、会社をやる意味がないかもしれませんしね。あと「設備投資」「研究開発」というのは文字通りの意味ですが、「減価償却」というのは、「設備投資」で消費した金額を、単年度で処理してしまうのではなく、年をまたいで、会計処理をするために生じます。

その下に「キャッシュフロー」と書かれているものがあります。これまで、会社の財務状況は、貸借対照表と損益計算書で示されてきていましたが、これらの処理は恣意的な処理が入り込む余地があるということで、「キャッシュフロー」という、純粋に現金の増減を見る方法も会社の財務状態・経営状態を見るにあたって重要視する方向に変わってきているようです。営業CFとは、営業キャッシュフローのことで、営業活動(モノやサービスを売ることによって)をおこなうことでどれだけ現金が増減したかということを示しています。図1ではプラスとなっているので、現金が増えたことを示しています。投資CFとは、投資活動によるどれだけ現金が増減したかということを示しており、▲775と示されています。▲印は、現金が減ったということを示しています。投資活動とは、定期預金をしたり、株を買ったりということや、生産設備の増設などが含まれます。なので、これが▲印となるということは積極的に投資をおこなっていることを示すことができます。財務CFというのは財務活動によるキャッシュフローで、主に借金の借り入れや返済を示します。借金をするとプラスとなります。ここでは▲1041となっているので、借金を返済したことを示しています。キャッシュフローは「営業CF」「投資CF」「財務CF」の3つから判断します。たとえば、投資CFで消費されるお金が、「営業CF」を超えるくらい巨額となっているときは、社内留保(貯金)を取り崩すか借金をしないといけません。このような状態を人間にたとえると、給料以上の買い物を繰り返していくうちに、どんどん借金が増えていき、最後はどうしようもなくなってしまうという状態に似ています。このような状態はとても危険です。

あと、一番下に、記されている「業績」の説明を少ししておきます。最上段の二行は、4月-6月の間の業績、「連」というのは、親会社である花王とその子会社のすべての業績を足し合わせたもの、「中」というのは、中間期での「業績」「単」というのは花王単体での業績です。「売上」とは、文字通り、どれだけ売ったかということを示しています。会社の規模を示す指標となります。「営業利益」とは、「売上」から原材料費、人件費、工場の稼動に必要な経費などを差し引いたものとなります。「経常利益」とは、「営業利益」に「営業外損益」、たとえば、災害とかで思わぬ損害をこうむったりしたときによる儲けや損、を足し合わせたものです。「利益」とは、税引き後の利益をさしています。「税引き前の利益」とは何かというと、「経常利益」に「特別損益」を足し合わせたものであらわします。「特別損益」には、土地の売買による収入、投資目的の株の売買などの売買損益が含まれます。

ここまでのおさらいとして、花王が化粧品事業を買収しようとしている会社(仮にKB社としますが)の現状を示します。

図2 KB社の現状

会社四季報・2003年秋季号(東洋経済新報社)


この会社の場合は、株主資本比率が0.1%と、完全に借金にどっぷりと漬かっていることが伝わってきます。また、キャッシュフローに関しても、営業CFに対して、投資CFがかなり大きく、翌年度では、財務CFが大きくなっており、借金をしないと事業の継続ができないところまできてしまっています。この会社の場合は、有利子負債が4950億円と巨額になっており、これをなんとか処理できないと、銀行からは「破綻懸念先」の烙印を押されてしまい、本当に追い詰められてしまうという状況にあったようです。そのために、この会社の中核事業である、化粧品事業を花王に売り払って、再建を果たそうと考えているようです。

会社四季報に書かれている内容について述べてみました。ここまでで書いたことは会社を選ぶ上での一つの指標にしてもよいのではないかと考えています。5年後や10年後も破綻の危機がない会社を見つけろというのは無理な相談であると思うのですが、とりあえず入社したときに大丈夫な会社というのは、会社四季報を見ればわかることだと思います。会社の使命は基本的には儲けることであると思います。儲けられない会社というのはやはりどこかうまくいっていないところがあるのではないかと思います。会社がうまくいっていないとき、それは、個々の社員一人一人の力ではどうすることもできなく、経営者の力量が足りていないことに原因があるのではないかと思います。うまくいっていないことに対して自分ではどうすることもできないとき、人間というのは一般的に萎縮してしまうように感じられます。また、会社の業績が悪いときだと、このごろはリストラの嵐が吹き荒れたりして、社内の雰囲気が暗くなったりすることもあると聞きますが、そういう雰囲気に入社してすぐに触れてしまうのはその後の人生にとってあまりいいことではないように感じます。もしも、みなさんが上場企業を就職活動で視野に入れているのであれば、会社四季報(もしくは日経会社情報)もあわせて参考にされることをお勧めいたします。



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