「大学改革の社会学」

天野 郁夫(あまの いくお)著  玉川大学出版部 4200円+税 2006年3月1日初版発行


大学・大学院が改革の嵐に飲み込まれようとしていますが、それらがどのような文脈の中で現れてきたことなのかを叙述した本です。著者は、教育社会学の研究者で、大学審議会設置以前の文部省の高等教育計画立案の専門委員会にも参加していたことがあるという方です。

本では90年代から現在にかけて、起きている大学改革には3つの軸が存在していることを示しています。一つは、1970年代からはじまった大学への進学率の飛躍的な上昇に対してその場しのぎ的に対応してきて、ついに大学が制度疲労してしまったことに対して根本的な対応の模索からはじまった流れ(1980年代の臨時教育審議会→90年代後半までの大学審議会の流れ)。二つ目が行財政改革の流れの中で現れた規制緩和と計画の撤廃を迫られる中での流れ、三つ目が、法科大学院というこれまでの大学院とは異質な大学院の誕生によってこれから生じるだろう、現在の大学・大学院との整合と再定義の問題です。

日本の主に国立大学についてですが、不幸だったのは、文部省の指導の下、戦前から引きずっていたエリート養成のための大学という枠組みを解消して、現状に合わせてより多くのレベルの人がアクセスできる大学への脱皮をはかろうとした(仮に何もおこらなかったとして実際にそのようになったかどうかはわかりませんが)矢先に、行財政改革の嵐に巻き込まれてしまったということなのかもしれません。行財政改革の中で、21世紀COEに代表される大学間の競争を導こうという環境の醸成がおこなわれると平行して国立大学法人化が行われてきました。その流れの中で、文部科学省の役割も規制と計画から、政策誘導に移ってきています(運営費交付金の傾斜配分の企図や、特色GPや21世紀COEのような各種のプログラムの設定)。

現在の大学というのは、たとえていうと、泳げないのに、海に投げ込まれて助かりたければ泳いで陸までたどり着けといわれているのと同じなのかもしれません。本の中で著者は、文部科学省の今後の役割は大学とはどうあるべきなのかのグランドデザインを示すことだろうと言っていますが(それがないと大学評価もできないという認識です)、現状においてはそれは示されておらず混迷が深まっている状況なのでしょう。

最近、岩波の科学の5月号で「<<競争>>にさらされる大学」という特集が組まれており、内容に期待を膨らませながら取り寄せて読んだのですが、かなり多くの方が各自の立場で原稿を寄越してくださっているのですが、結局何が問題なのかという点については整理してくれておりませんでした。ある程度背景を知っている人ならその文脈に当てはめて読むことはできるのかもしれませんが、新聞から得た知識程度しかもっていない人が読んだら、何か困っている先生が多そうだということしかわからないのではないでしょうか?今回示した本は、今何が起きているのかを見るための一つの視点を与えてくれる本だろうと思いました。



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