「労働ダンピング〜雇用の多様化の果てに〜

中野 麻美(なかの まみ)著  岩波書店  780円+税 2006年10月20日初版発行

著者は労働問題に取り組んでいる弁護士です。この本では、現在、雇用の現場で何が起きているのかその一面を活写しております。

著者が問題としているのは、一つ目としては、多様な働き方(派遣社員・パートだけではなく、例えば、正社員であっても転勤にも応じる基幹職と原則転勤なしの職といったコース別の区分)が、隠れた性差別につながっているのではないかということ。二つ目として、「派遣」の拡大によってもたらされた「労働の商取引化」の拡大と規制のたががはずれたことによるダンピングの激化。三つ目として、成果主義処遇の導入による正規雇用の請負化(業績で賃金や処遇が決定するというような)です。

著者は、非正規雇用化の流れが、女性だけではなく、男性をも巻き込んでいった背景には、1995年の日経連(当時)による「新時代の日本的経営」という提言にみられる雇用政策の転換にあると述べております。この提言は、従来の年功序列的な日本型雇用システムを転換し社員層を@ごく少数の企業経営の基幹を担う「長期蓄積能力活用型」、A専門的な知識や経験を活かす「専門能力活用型」、B定型業務を中心に担わせる「雇用柔軟型」、の3グループに分けて管理するというものでした。@は従来の終身雇用の正社員、Aは有期契約や恐らくは、特定派遣(常用雇用)の専門職、Bは登録型の派遣社員を指すのだろうと思われます。

「自立的な働き方(みなし残業制のような労働時間に縛られない働き方)」という流れの中で、納期やノルマに際限なく追われる「正社員」の例や、「派遣だから」という理由の低賃金労働や一方的な派遣打ち切り、派遣先と派遣社員の間でセクハラやパワハラのトラブルがあったときに派遣先からの派遣契約の打ち切りによって、トラブル自体もなかったことにされてしまうという不条理などなど。現在の雇用の多様化の中で生じているさまざまなねじれを示していきます。

大学や大学院を出ていようとも、なんとなく生きていると足元をすくわれる時代になったと感じずにはおられません。私は現在の流れについて肯定的ではないですが、まずは個々人が自分の人生に責任を持つことと、特に先生方には学生を指導する責任があることを自覚して欲しいと思います。



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